…まえがきより…
■親子の心が通じ合う
本書は、十代の若者たちが心の声に耳を傾け、内なる安心感と理解力を育てるための手助けをするものです。若者たちは、家族のサポートがなくとも本書を活用できますが、ご両親が一緒に、本書の内容を練習していただければさらに効果的です。
大人と十代との間には、なかなか通じ合わないというギャップ(溝)が存在します。世代間で途切れた絆とコミュニケーションを取り戻すためには、お互いが心で結ばれるよう、親子で協力して努力しなければなりません。親と子の心が、単なる衣食住や表面的な利便性を越えて通い合うとき、真の意味での幸福な関係を築くことができるのではないでしょうか。ところが現実には、必要不可欠な心の結びつきがなおざりにされています。
親子の心が通い合うとき、それは絆となり、結果として、お互いを深く理解し合い、尊重し合う関係を築き上げます。同じ屋根の下で暮らす親子に、もし心のふれ合いや心の通い合いがなければ、子どもたちが将来社会に出たとき適応性を欠くといった弊害が生じます。
家庭の価値を見失った一体感のないバラバラの家族が増える中で、学校はうつろな家庭が原因の虚無感に直面しています。ブッシュ大統領(当時)や多くの人々は「我々はアメリカの家庭の力強さを再建しなければならない」と述べていますが、本当に再建の方法はあるのでしょうか。
自分自身とも他者とも、心のレベルでより深くつながる! これが解決に至る重要な要素です。私たちは、今日多く見られる「姓」が同じだけで辛うじてつながっている家族にならない道を探らなければなりません。現代の家庭で失われがちな感性と思いやりを持つことこそ、家族としての本物の結びつきを取り戻す道なのです。
家族が自分を支えていてくれると確信できない、気持ちの上での安心感のない子どもたちは、自制心が育ちにくく、行動する際、自分や他者を大切にするのをおろそかにしがちです。心を閉ざしたままだと、学校での勉強にも支障をきたすことになります。
ロサンゼルスタイムズは、家族の絆が弱い生徒ほど、ドラッグの誘惑に負けやすいと伝えています。ドラッグを使用する子どもたちには、自分が愛されているという実感があまりない、といった傾向が見られます。彼らは精神的に孤立し、常に何かを恐れています。またその多くは人生をむなしいと感じ、虚無感から逃避したいと思っているのです。もちろんティーンエイジャーのドラッグ使用やアルコール依存の原因はそれだけではないでしょうが、十代の声を集めると明らかに家庭に問題の根があります。
■ 問題解決は話し合いと理解
これらの問題は親と子が心のレベルで話しあい、お互いの立場を深いレベルで理解しあうことでしか解決のメドが立たず、また予防する手段もありません。
仲間意識に流されて、多くのティーンたちが集団で不良行為をしていますが、固い家族の絆がある家庭で育った子は、たとえ仲間意識の強い年代にあっても、誘惑に負けず自信をもって友だちや仲間とは異なる選択をすることができるのです。
両親の離婚もまた、家族の絆を引き裂くものです。統計によると、両親が離婚した子どもたちの
60%は、自分たちが両親の離婚の原因になったのではないかと考え、自分を責めています。また片方の親から拒絶されているのではないかと悩んでいます。子どもたちの
50%は、離婚してから不機嫌になった親と一緒に暮らしています。さらに子どもたちの三分の一が離婚のあと、別れた方の親には会っていないのです。これらのティーンたちは通学している場合も、社会で働いている場合も、家庭内の未解決の問題から生じる精神的重荷を背負って生きているのです。
私たちはもはや、このような社会的問題を無視することはできません。問題を根本的に克服するには、粘り強く取り組む大きなエネルギーを必要とします。今日両親がそれぞれ仕事を持っている中で、毎日子どもたちを世話して育てなければなりません。
子どもたちの24%が片親と暮らしていますが、その親には一人で子どもを育て、家事をこなし、さらにさまざまな支払いをしなければならない厳しい現実があります。
最近のロサンゼルスタイムズの統計は、親たちが子どもたちと十分に話し合う時間がないことに悩んでおり、罪悪感を抱いていることを示しています。
78%の親は、子どもたちに道徳をちゃんと教えられないとして、自己採点でC評価、D評価、さらには落第点を自らにつけている人もいます。別の全国調査は、十代の五人に一人がこの一ヵ月間に親と会話した時間は
10分に満たないと報告しています。全般に、一九六〇年代の親と比較すると、今日では親が子どもと一緒に過ごす時間は一週間に
10〜12時間も減っているのです。60年代に十代だった私たちが親と過ごした時間は、前の世代と比較した場合、ほとんど減っていないことを考えると、皮肉な結果といえるでしょう。
では、現代の忙しい親や大人はどうしたら十代の子ともっと強く結びつくことができるのでしょうか? また、忙しいスケジュールの中でどうしたら質の高い世話ができるのでしょうか?
■ 親も「自己発見」することが大切
真の問題は、時間の不足ではなく、どう選択するかです。限られた時間をどう過ごすかを問われているのです。この本を読んでいるあなたはもしかすると、ストレスをためて生活し、重圧感から逃げ出したいと思いながら暮らしてはいませんか? 親自体が自己発見(本当の自分探し)することによって、精神的、感情的エネルギーを効率よく上手に使うことを学びます。それはストレスを減らし、子どもと過ごす時間の質を高めることにつながります。たいていの親は子どもの世話をしていますが、親自身が精神的、また感情的にアンバランスに陥り、自制心を失うと、世話をしているといっても質の落ちたものになってしまいます。
十代の若者たちの大きな不満の一つは、親が自分の話を聴いてくれないことですが、親の方は逆に、子どもたちが親の話を聴かないと感じています。親の期待どおりに行動しない子どもを前にすると、親はお手上げです。そして「育て方のどこが悪かったのだろう?」と困り果ててしまいます。
スマートな心で対応すること――心の英知に従う――それがこのジレンマを解消する原動力になるのです。
親と子の溝を埋める第一歩は、誠実な態度でお互いの話に心から耳を傾けることです。多くの場合、人は単に頭だけで相手の話を把握しがちです。と同時に、相手の話を聴きながら自分の考えや感情を頭の中に流れるままにしているものです。相手の話を心から聴きとれない結果、コミュニケーションに目に見えないギャップが生じて、勝手に判断したり、先走りをして相手を恨んだりしてしまい、ついには相手との間に抜き差しならない心の隔たりが生まれるのです。
第12章の「深く聴く」は、心から相手の話を聴くことによって、より良いコミュニケーションをはかり、相手を深く理解する方法を示していますので、ぜひお読みください。