これほど不可思議で、
悲しみに溢れながら、
夫婦・家族の愛情を描いた
ノンフィクションは見たことがない。
村上龍
シズが登場したとき、シズはいきなり目の前のボールペンを握りしめて、町沢医師に襲いかかった。
まわりに武器となるものが見当たらなかった。目の前にはボールペンしかなかった。
それを握りしめて町沢医師を突き刺そうと振りかぶった。
「よくもカオリを手なずけやがったな」
町沢医師も男だ。シズよりは力がある。
ボールペンを払いのけ、反撃し、シズの手を押さえ込んで叫んだ。
「人間になりなさい。人間としての正しい行いをしなさい」
(本文より)
フジテレビでドラマ放映の原作『妻は多重人格者』改題作