捨てられたペットたちの
リバーサイドストーリー

いのちを救う保護施設

塩田 妙玄 著 2015.12.10 発行
ISBN 978-4-8024-0012-1 C0036 四六並製 272ページ 定価 1760円(本体 1600円)



はじめに より

捨てられたペットたちのリバーサイドストーリー

はじめまして。高野山真言宗僧侶の塩田妙玄です。
今までの著作本や漫画、ブログ等をお読みくださっている方には、おなじみの「ゆるりん坊主(ブログタイトルでもあり)」です。

はじめましての方に、少し自己紹介をさせていただきますね。
私は若いころトリマー(犬の美容師)の資格を取得し、動物病院の店舗を借り、ほば大型犬専門の犬の美容室をやっていました。若さもあり、長年無理を重ねて腰を壊し、長期療養後、腰痛が治りきらずに中腰が多いトリマーという職業を廃業。
その後、都心で旅行会社・商社OLなど事務職をしていましたが、どうにも事務とその頃に導入が始まったパソコンの操作ができずに、会社員という世界からドロップアウトをしました。
自分のやりたいことも、目的もわからない人生は、長く苦しいものでした。
そんな中、冒険家・植村直巳さんに憧れ、私も何か冒険をしよう! と計画し、アラスカやブラジル、パラグアイ、アルゼンチンなどバックパックの旅へ。最終的には「アラスカで犬ぞりの大会に出よう!」と、帰国後すぐに、シベリアンハスキーの♂と暮らし始めます。
このハスキーのしゃもんとの出会いが、私の人生のターニングポイントになりました。

それから私の運命は本格的に、ものすごい勢いで動き出します。
しゃもんは生まれつき肝臓や膵臓に障害を持っていたので、渡米はできませんでしたが、私はこの野生的な犬に魅了されます。もうぞっこんってやつ!(笑)
とにかく、この犬と一緒にいたい一心で、ペットライターを始め、しゃもんを相棒(モデル犬)にして、全国のペット関係施設の取材に明け暮れました。
同時に、漫画家のやくみつる先生のアシスタント、また母校である東京愛犬専門学校の美学の講師として、長きにわたるお勤めを始めました。
再び戻ってきたペットの世界に私は夢中になり、ペットライター、アシスタント、専門学校講師とこの三足のわらじをはきながら、独学でしゃもんを訓練し、仕事を終えては、何日もしゃもんと山でテントを張って山登りの日々。
日が登る前から山に入り、一緒に山肌を疾走し、崖を下り、川を渡り、夕暮れにテントに戻る。飛ぶ・走る・渡る・泳ぐ・登る・探す・戻る。自然の中でしゃもんはこれらの全てを自分で考えて行動していました。アウトドア能力が抜群に高いハスキー犬が、犬としての本能をあますとこなく発揮する。その見事な美しさを見たくて私は寝る間も惜しんで、彼と山に通ったものです。
この至福の時間が、私の人生の黄金期だったのだと思います。自分の好きなことを思う存分満喫し、自分と自分が好きなもののためだけに使う時間。自分たちの幸せで完結する世界。
ライターの仕事はしゃもんが亡くなったときに、いくつかの疑問とともに、自分の中での終わりを感じました。
いくつかの疑問とは、次の三つです。
・世の中には不幸な子がたくさんいるのに、1頭の犬にこんなに高度医療を施して、こんな莫大なお金をかけて良いのだろうか?
・私とうちの子だけの世界は至福の世界だったが、はたして自分たちだけが良ければいいのだろうか?
・しゃもんと出会って、しゃもんから学んだ多くのことを、私一人が抱えているだけでいいのだろうか?
その後、漠然とその疑問は消化できないまま、心理カウンセリング学・生理栄養学・陰陽五行算命学という、「心・身体・持って生まれた個性(宿命)」を学び、カウンセラーに転身。
人の生・老・病・死のご相談に触れるたびに、「生と死」を正当に伝えたい、と思うようになりました。またいくつかのやりたい目標のために、「そうだ!僧侶になろう!」「僧侶になったら、今やりたいと思っていることがみんなできる!」と、思いつきます。
その後、飛騨千光寺の大下大圓住職の元で得度。東京から飛騨まで修行に通わせていただき、さらに高野山に入山。高野山で修行後、正式な「高野山真言宗僧侶」となり、カウンセリング業と兼任の日々が始まったのです。

この同時期、私にはもうひとつの大きなご縁がありました。
高齢で重篤な持病を持ちながら、捨てられた犬猫を自己資金で保護している人がいるから会ってみないか? というお誘いでした。
そのころ私は自分のできる範囲でやっていた、動物の保護団体への寄付だけでなく、直接動物たちに触れ、何かをやりたいと考えはじめていたところでした。
紹介されたのが“愛さん(仮名)”という初老の男性がやっていた個人施設です。
初めて愛さんの施設を見たときに、ビリビリビリーーー! 全身を稲妻が駆け抜けたように感じたのです。ペットライターとして、たくさんの保護施設やたくさんの愛護・保護活動家の取材をしてきた私が、このような衝撃を受けたのは初めてのこと。
翌日から私は愛さんの施設のボランティアに、日参するようになったのです。
そんな施設の近くには、河川敷とホームレス集落がありました。
愛さんは捨てられた犬猫の保護だけでなく、はからずも周辺のホームレスさんの相談役になっていたのです。今までに自己資金のみで、500頭もの犬猫を保護、里親に出し、施設の運営費を稼ぐだけでも大変なのに、周辺のホームレスさんは次から次へと問題を持ち込んできます。
それは、「段ボールに入れられた子猫を拾った」「怪我した猫を連れてきた」「病気のタヌキを連れてきた……」それこそ、広大な河川敷のあちこちから持ち込まれる動物たち。それに加えて万引きした、病気になった、ケンカで刃傷沙汰になった、というトラブル、自分がしでかしたことの後始末を愛さんに頼る。といったことを際限なく持ち込むホームレスたち。
初めて関わる犬猫保護施設の内容と、ホームレスの世界は、私の世界観を根底から変え、高野山では体験できないような、忍耐や修行の場を与えてくれました。
ここらへんの『河川敷ホームレスと猫たちの物語(仮名)』(ハート出版)はまた、次作で書こうと思っていますので、ぜひ、「あなたの知らないホームレスと猫たちの世界」をお楽しみにしてくださいね♪
一般の人から捨てられる犬や猫、それを拾ったホームレスさんが、次々に愛さんの施設に持ち込んでくるという際限なき負のループ。一般の人と違って家やお金を持たないホームレスさんたちから、犬や猫、傷ついた野生動物を持ち込まれると、愛さんは断る術を持ちません。愛さんはどんなときでも、持ち込まれた動物たちを黙って引き取り、どんな子でも必ず病院に連れて行きました。
また、河川敷のホームレスさんたちの相談にも乗り、ときには叱り、諭し、またあるときは福祉に話をつないで入院できるようにしたり、なけなしのお金を渡したり……。そんなこともやっていました。家族からも絶縁され、誰からも相手にされない彼らの最後の頼みの綱が愛さんです。それでも、そんな恩人に対しても、彼らの恩を仇で返す行為は日常茶飯事。

私たち密教僧は不動明王をご本尊とした護摩を焚き、祈願する行を行ないます。荒々しいお姿ながら、みずからも炎の中で救済していく不動明王。私にはお不動さんと愛さんの所業が重なって見えたものです。
ご本人は「ただ必死でやってきただけ。使命とか思わんよ」そう言いますが……。

そんな愛さんの施設を、私は2009年からボランティアとしてお手伝いしているのですが、そこは合理性・コストパフォーマンス・計画性という、健全で常識的な社会性とは相反する場所でした。
どんなに節約しても、計画を立てても、ホームレスさんから喰らう一撃(動物の持ち込みやトラブル・事件)で、全てがめちゃめちゃに。それこそ、愛さんも私も仕事をしながらのボラは、目の前の子を助けるだけで精一杯の毎日。
本書は、そんな愛さんの個人施設で保護された犬猫たちの物語です。
いたるところに起こった出来事に関しての、資金の困窮のこぼし話がありますが、個人の収入のみでやってるところなもので、これも現実、とあえてそのときの状況・気持ちのまま書きました。そんなことも個人の保護施設の苦しさであり現状です。そのあたりは暖かいまなざしでお読みくださいませ。

ようこそ、妙玄ワールドへ。どうぞお楽しみください!



目次


はじめに


第1話  奇跡のゴロー

第2話  ビビリ屋ちびり

第3話  猫ならにじお

第4話  施設の犬たち

第5話  事件の謎は藪の中

第6話  引き寄せられた3匹の猫

第7話  犬ならジャイコ

第8話  あかりばあちゃんの介護日記

第9話  骨折の小夏がつむぐ縁

第10話  老ホームレスと犬のコロ・クロ


おわりに

謝辞




 

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