この本は、これからヒプノセラピーを受けてみようと考えている人のために書かれたものです。
本編で詳しく説明しますが、人は誰でも催眠にかかることができます。ヒプノセラピストの話す言葉を理解することさえできれば、その人は必ず深い催眠状態に入っていけます。
ですが、実際には催眠にかからない人もいます。誰にでもかかるはずの催眠に、かからない人がいる。これは一体どういうことなのでしょうか?
人が催眠にかかるのを妨げる最大の要因、それが恐怖心です。それは催眠に対する恐怖心かも知れませんし、セラピストに対する恐怖心かも知れません。あるいは、催眠にかかることで、他人に自分の心の奥底を覗かれてしまうのではないかという恐れを抱いているからかも知れません。いずれにせよ、恐怖心を持っている人には、催眠は絶対にかかりません。
しかし、ほとんどの場合、こうした恐怖心は、催眠とヒプノセラピーに対する誤解から生み出されたものです。それらの誤解を解くことで、人は誰でも催眠状態に入り、そこで必要な変化を得ることができるようになるのです。
本書の内容は、私が院長を務める「催眠療院・銀枝庵」の通常セッションで初回時に行う、プレ・トーク(Pre-talk)と呼ばれる技法をベースとしたものです。これは30分ほどの時間をかけて、催眠とヒプノセラピーの仕組みをじっくりと説明するというものです。これを受けたクライアントさんのほとんどが、催眠とヒプノセラピーに対する誤解を解き、恐怖心をなくすことができるようになります。その結果、セラピーで必要とされる深さの催眠状態に、誰でもスムーズに入れるようになります。
実際のプレ・トークは、それ自体が精妙な催眠誘導法となっており、ヒプノセラピストがさまざまな心理的技法と話術を駆使して行うことで最大限の効果を引き出します。ですから、本書でお伝えすることができるのは、プレ・トークのほんの一部分でしかありません。ですが、それは逆にプレ・トークのエッセンスを抽出したものであるともいえます。
以下の各章を読むことで、「ヒプノセラピーに興味は持っているけれども、どうしてもあと一歩を踏み出せずにいる」というあなたが、心の底から安心して療院に足を運んでいただけるようになることが、本著の最大の目的です。
そもそもプレ・トーク自体が、クライアントさんに催眠とヒプノセラピーをわかりやすい形でご説明させていただくことを目的に作られたものですから、本著でも、催眠の分野や心理学、精神医学、脳生理学等で用いられる難解な専門用語をできる限り使わずに説明を試みました。そのため、解説が大まかになってしまった部分も数多くございます。学術面から催眠とヒプノセラピーについてより詳しくお知りになりたい方は、専門書が多数出版されておりますので、そちらをご参照ください。
ヒプノセラピーは大きな可能性を持った素晴らしい療法です。ですが、残念なことに、現在、クライアントさんとセラピストとを隔てる恐怖心や不安感や疑念といった壁は、私が考えている以上に高いものであると思われます。その壁を少しでも低くして、クライアントさんが「ヒプノセラピーってこわくないんだ」と思ってくださり、この素晴らしい療法をより身近に感じていただくことができれば、この本を世に問う価値があるのではないかと思います。