
この本を書くにあたり、まず最初に感謝したいのは、裁判を始めた直後に日本に帰り、衆議院議員会館の大会議室で「帰国報告会」を開催した時に集まっていただいた、四〇〇人余の方々から受けた情熱である。熱気にあふれるその会場で我々を激励していただいた。さらに、それに続く二万人余の方々から、寄付金による支援をいただいた。それらの支援が、三年を越すアメリカでの慰安婦像撤去裁判を続けさせる原動力となった。感謝に堪えない。
アメリカでは、慰安婦問題は、まったくと言ってよいほど知られていない。知っている人でも、韓国の挺対協などからくる風説や、マイク・ホンダ元下院議員の主張している日本責任論くらいである。
このような状況の中で、我々は、グレンデール市の実施した慰安婦像の設置は米国の憲法に違反する、という憲法論で戦った。グレンデールのような地方自治体が、連邦政府が独占するべき外交問題に関与するのは、米国の憲法違反であるとする主張である。
彼らの唱える慰安婦論が歴史的な事実に合致しないとか、日本人に対する差別であるとかの理由で戦うことが、より皆さんの心情に合致しているのは承知していたが、歴史的な認識論を裁判で決着するのは困難であり、日本人に対する差別を主張することも、裁判における訴因としては弱いと弁護士に言われたのである。
それでもこの裁判は、徹底的に韓国系・中国系の団体からの強い抵抗を受けた。しかも、米国の裁判所の判事たちには、慰安婦問題について日本軍が悪事を働いたという先入観が植えつけられており、それによって、法理論よりも感情論で判決が出されたという傾向が強い。
この著書は、今後、類似の訴訟を米国で起こすことを考える際の参考になるであろうし、より一般には、アメリカにおける司法の役割、性向、限界などを知るための参考になると思われる。
この裁判を実施するには、多数の方々の、心からの協力をいただいた。特に前半においては、GAHTのコアであった水島一郎氏、高橋光郎氏、鎌倉花氏、そして原告第一号であったミチコ・シオタ・ギンガリー氏(二〇一五年に鬼籍)、そして中盤から後半にかけては、細谷清氏に感謝したい。特に細谷清氏の積極的な協力なくしては、最高裁まで到達できなかったと思う。さらに、終始この裁判に精魂を傾けた妻、久美子に謝意を表明したい。
また、日本でこの裁判を支援し、広報・募金活動などにおいても協力していただいた以下の諸氏にも、深く感謝する次第である。加瀬英明、藤岡信勝、藤井厳喜、山本優美子、桝田淑郎(二〇一七年に鬼籍)。さらに、募金活動に協力をいただいた櫻井よしこ氏と、すぎやまこういち氏にも謝意を表明する。
この出版に関しては、全原稿に目を通して詳細な点に関してコメントをいただいた、現代史家の秦郁彦氏に深く感謝するとともに、ハート出版の日高社長を含む職員一同に、迅速でプロフェッショナルな仕事をしていただいたことを感謝する次第である。