朝鮮戦争は休戦しているだけで、戦争はいまも終わっていない。
その戦時中にあって、連合国(国連)側の主力・アメリカの大統領と、戦時中の敵国である北朝鮮のトップが、「和平会談」を実現した。これは、極めて異例な出来事だ。
トランプ大統領は、アメリカの保守派からも反トランプ陣営からも、メディアからも、あらゆる批判を浴びせかけられている。
しかし、批判はそれぞれに論じるところがあるだろうが、世界史的にも異例、かつ「和平」に至るかもしれない会談を、戦時中の敵対陣営の最高司令官同士が実現させた。日本の使命は、この歴史的展開をチャンスに結びつけ、北朝鮮に拉致された日本人を奪還することにある。
拉致被害者は、日本が国家主権を発動して、奪還しなければならない。それが、独立主権国家の気概というものだろう。自国民、日本人の生命と財産を、外国政府に護ってもらっているようでは、独立しているとは見なされない。
日本は、核で相手の国を脅して従わせることはできない。だから、アメリカの支援や協力を否定しているのではない。しかし、第一義的に、拉致された被害者を奪還するのは、日本国の、日本政府の使命である。拉致被害者の奪還は、独立主権国家として、日本が成し遂げなくてはならない。
これは、安倍首相にとって、最大のチャンスとも言える。
北朝鮮が、もし自由で繁栄する国家となることを望むなら、拉致した被害者を全員日本へ帰国させるよう強く求めることだ。
北朝鮮はかつて日本国だったし、北朝鮮人民は、第二次世界大戦が終わるまでは日本国民だった。日本と朝鮮には、そうした特別な歴史的背景がある。
平和で繁栄していた朝鮮は、日本が戦争に敗れたことで米ソ冷戦に巻き込まれ、朝鮮の人々は、塗炭の苦しみを味わう運命をたどることとなった。
多くの人は信じられないだろうが、日本が統治していたときの朝鮮半島は、自由で平等で、規律正しく、繁栄していたのだ。
もう一度、北朝鮮が繁栄と豊かな未来を望むなら、非人道的な拉致を「総括」し、全ての拉致被害者を日本に帰国させるべきだ。
ずっと拉致問題は解決に至らずに、平行線が続いた。いま、北朝鮮の金正恩委員長は態度が変化している。前述したように、資本主義経済を取り入れ、国を豊かにしようと思っている。
そのために、日本ができることは多い。もし北朝鮮が拉致した日本人を全員帰した後であれば、安倍首相は北朝鮮が日本のように自由で豊かな国家の繁栄を実現できるように、金正恩委員長と交渉すべきだ。北朝鮮の発展への“ロードマップ”も、日本は描くことができる。
ただし、北朝鮮が拉致した日本人を帰さないのなら、経済的見返りを与えてはいけない。「経済」と日本を支援する各国の協力、そして国際世論を味方に付けて、日本も使命を果たすべきときが来ている。
安倍晋三は「強運」だ。運がとにかく良い。
北朝鮮の民主化を実現するという困難な仕事を果たす使命が、日本国の首相には求められている。
安倍首相よ、このチャンスを生かし、拉致被害者を全員奪還しようではないか!
そうした、いま現実に起こっている変化に、安倍首相は機敏に対応してゆくべきだ。
その一方で、「北の脅威」は常に存在していることも、しっかりと肝に銘じておくことだ。
北朝鮮が、仮に、資本主義を導入しても、自由主義陣営の一翼を成す国家となったとしても、忘れてはいけないことがある。
「北の脅威」は、消えてなくなるわけではない、ということだ。
北朝鮮の背後には、習近平の支那帝国があり、また北朝鮮の上には、これまた権力に居座るプーチン大統領のロシアが存在する。
こうした国々の核ミサイルは、仮に北朝鮮が非核化したとしても、何百発も日本に狙いを定めている。この現実は、まったく変わらない。
それは地政学的、かつ歴史的な問題でもある。
日本の背後に支那とロシアがある限り、半島は常にそうした「北の脅威」に晒され、いまでなくとも、百年後、数百年後に、それがすごく高まることも有り得ることだ。それは、二〇〇〇年前から今日までの日本の歴史を、朝鮮半島を巡る大陸の巨大帝国との「せめぎ合い」という観点で見ることによってハッキリとわかる。
ヘンリー・ストークス氏は、昭和三九(一九六四)年に来日して以来、『フィナンシャル・タイムズ』の支局を東京で立ち上げ、英国の一流紙『タイムズ』、そして『ニューヨーク・タイムズ』の東京支局長として、第一線で活躍してこられた。ストークス氏は、同時に『ニューヨーク・タイムズ』のソウル支局長として北朝鮮の金日成総書記(当時)と面会し、韓国の金大中元大統領には三〇回以上の単独取材をしている。朝鮮半島を最もよく知り、取材した西側のトップ・ジャーナリストだ。
そのストークス氏が語る朝鮮半島と日本の歴史は重層的である。時に、外国人が広い視野を持ってそうした歴史を俯瞰する「不易の目」と、時代の変化を的確に捉える「流行の目」の両方を活用して、物事を判断する必要がある。
拉致被害者の救出、そして二度とそうした不幸をもたらすことがないように、憲法改正をして国防をしっかりと固める。そしてアジアの民主化と発展に尽くす。
安倍首相には、日本国内でも世界的にも、大きな歴史的使命をしっかり果たし、大成功を収めることが期待されている。
かつて平和で、豊かで、統一されていた日本統治時代の朝鮮半島のすばらしさを、もう一度、あの半島が取り戻し、自由で民主的なアジアをつくり上げることに貢献できれば、歴史は変わる。安倍首相にも、歴史的な使命を、果たす秋が巡ってきたと言えるのではないか。
昭和から平成へと御代がわりをしたときは、時を同じくして、ベルリンの壁が崩壊し、ソ連が消滅した。
我々は、これから今上陛下のご譲位により、新たな御代を、近く迎えることになる。
東京オリンピックも、再来年には開催される。
アジアの大きな和平の時代、大和の時代を、この一連の大きな変化がもたらすであろうと、私は秘かに期待をしているのだ。
この時期に、半島問題の第一人者でもあるヘンリー・ストークス氏の論考は示唆に富む。日本国民も改めて、日本と朝鮮との関係に目を開かれる思いがするのではないだろうか。
これは、英国人記者が見た「日朝関係史」の名著である。
国際ジャーナリスト 藤田裕行