一神教が戦争を起こす理由

世界史で読み解く日米開戦

関野 通夫 著 2019.05.24 発行
ISBN 978-4-8024-0075-6 C0021 四六並製 264ページ 定価 1760円(本体 1600円)

「はじめに」より抜粋

一神教が戦争を起こす理由 世界史で読み解く日米開戦

日本人の思考形態は、世界の文明国の中では、かなり特異です。その主原因は、日本人が多神教あるいは汎神論であることによることが大きいと思います。一神教ではないので、宗教の違いによる大きな戦争は起こしませんが、その代わり、あまり物事の原理原則を考えず議論もしません。これでは、世界の外交戦で勝ち目はありません。世界の文明国は、日本を除いて、ほとんどが一神教だからです。中華人民共和国は共産党の一党独裁ですから、一神教の国と言ってもいいでしょう。
そこで、重要な外国との関係・出来事について、日本を戦争の泥沼に誘い込むのに、それぞれの出来事が、どのような役割を果たしたかを、文明論的な視点とアメリカ人に相当な影響を与えていると思われる宗教思想上の観点からも考えてみる必要があると考え、通史的な考察を加えました。
日本のマスコミあるいは言論界は、WGIP(ウォーギルト・インフォメーション・プログラム)の洗脳工作による自虐思想が深く浸透し、日本が関係した外交的事件は、特に悪い結果になったことは、すべて日本の意向によって支配されたように見て日本悪者説を流布します。この本では、そのような考え方を廃し、より公平で客観的な見方をします。

私が本書で最も力を入れて書いたのは、ペリーやフランクリン・ルーズヴェルトそしてマッカーサーが直接的、あるいは間接的に日本に与えた影響ですが、彼らのことを論じるには、その背景にあるキリスト教の考え方、更にその背景にあるユダヤ教の考え方やギリシャ・ローマの人たちの思想まで立ち入る必要があると考え、関係する著作や旧約聖書から話を始めました。
明治維新以降約150年、日本人は激動する世界と日本を経験してきました。その中でもペリー来航以来、アメリカが深く関わってきました。日本の運命は、アメリカという主変数と支那(中国)という副次的変数が織りなす布のようなところがあります。そして、アメリカ人の行動に大きな影響を与えたユダヤ教とキリスト教の複雑な関係についても論考します。

本書は学者しか分からないような難しい知識を必要とせず、市井の普通の人でも歴史の真実とその深い背景を読み解けるように平易に書いてみました。詳細な専門的な内容ではなく、各出来事の基本的事実と歴史の中での位置づけに目を付け、どちらかというとマクロ的に事実を書くことにしました。特に保守思想を強調したわけではなく、事実を、できるだけ客観的に書いたつもりです。各々の出来事が日本に与えた影響、時により深刻な影響について書いたことを、通説や俗説に囚われずに読んで頂けば、自然に自虐思想から脱却できると確信します。

今回、本書の執筆に当たって西洋史を勉強してみましたが、つくづく感じたのは、ヨーロッパは、1つの地域に幾多の民族が出入りし興亡を繰り返したのに対し、島国日本は他国に侵略されることもなく、また移動してくるのも困難があり、ヨーロッパに比べて、まったく平穏無事に過ごしてきたことです。徳川時代の末に、アヘン戦争の話を聞いて危機感を抱いた先覚者がいたことは幸いでしたが、現在の日本人の脳天気な言動や、いくら警告しても続発する振り込め詐欺などの状況を見ると、WGIPの洗脳だけでない、過去の経験からくる日本人に染みついた脳天気さを考えざるを得ません。

最後に、やや私事になりますが、この本を書き始めた後で、母方の祖父である日比野正治海軍中将の講演あるいは執筆のための原稿を発見しました。本書で引用した論考は、昭和8(1933)年に祖父が書いた物ですが、最初のページがなくなっているため、何のために書いたのかを確定することはできません。
当時、祖父は米国駐在経験もあり、海軍部内では英語がかなり達者だと見られていたようでした。そのため、昭和4(1929)年度の練習艦隊の巡航時には、野村吉三郎司令官の通訳も兼ねて練習艦「浅間」の艦長を務め、司令官に従ってフーヴァー大統領との会食も経験しています。この論考を書いた時は、海軍省軍事普及部委員長(現在で言えば、広報部長か)であり、論考の内容は、祖父の個人的見解ではなく、海軍の公式見解であったと思います。そういう意味もあって、この論考は全面的に引用しました。内容のほとんどは、決して軍国主義的な偏向も無く、今読んでも妥当な内容であると思います(用語等は、現代語風に直してあります)。
この本の出版が実現すれば、86年の時を隔てて祖父と孫の共著が実現することになり、感慨深いものになります。

本書は、大きなテーマである「日米戦は何故起きたか」を考える時に、世界の宗教や歴史を知ることによって深く、複眼的思考ができるように、ポイントになる宗教を含む歴史的事実を、書いています。そのため、読者が深みのある歴史観を得る助けになると期待します。
とかく日本人は、歴史というものを、どちらかというと、日本史は日本史、西洋史は西洋史、中国史は中国史として捉える傾向が強かったと思いますが、有るべき姿は、それらを常に関連づけて見ることです。それによって、より深い見方、そして複眼的な思考ができるようになると思います。そのためには、まず世界の歴史を知り、その文化や宗教を知る必要があります。





目次


はじめに

第1部 戦争の原因を複眼的に理解する

第1章 宗教が戦争の原因となるメカニズム
 1.世界の文明と日本
 2.アメリカ人の考え方の淵源
 3.気候条件と宗教
 4.生き残った一神教と滅びた多神教
 5.私が体験したイスラム
 6.ユダヤ教
 7.キリスト教
 8.ゾロアスター教そして多神教の国々
 9.都市国家と市民権という発想そしてローマ帝国
 10.ギリシャとローマの比較、そしてなぜ日本はキリスト教化されなかったか
第2章 世界史の中で日本はどのような位置にいたか
 1.白村江の敗戦と当時の危機意識
 2.カール大帝と神聖ローマ帝国
 3.中世とは何か
 4.ノルマン・コンクエストと文化の伝播
 5.反ユダヤ主義はヒットラーの専売特許ではない
 6.ルネサンスと宗教改革そしてカルヴァンとルター
 7.大航海時代
 8.日本へのキリスト教伝来と拒否
 9.アヘン戦争とアロー戦争
 10.マニフェスト・デスティニーと偽書・田中上奏文
第3章 日本はどのように戦争に巻き込まれたか
 1.日比野正治海軍中将の論考
 2.ペリー来航前後の出来事
 3.明治維新
 4.日清戦争
 5.日露戦争と日英同盟
 6.狂騒の20年代から大恐慌へ

第2部 日本人が歴史戦で「負け続け」る理由

第1章 日中戦争の分岐点
 1.西安事件と蒋介石の謎
 2.蒋介石の「最後の関頭」演説
 3.盧溝橋事件
 4.通州事件
 5.船津和平工作
 6.第二次上海事変
 7.トラウトマン和平工作の失敗
 8.南京戦と虐殺問題
2章 日米戦争はなぜ起きたか
 1.アメリカその他が対日戦を意図したか覚悟して起こした事件(1a)
 2.アメリカなどが、対日戦を意識して起こしたわけではない事件(1b)
 3.日本側による戦争を意図あるいは覚悟した行動(2a)
 4.日本側で対米戦まで意図せずに起こした偶発的な事件(2b)
3章 日米開戦から終戦へ
 1.ハルノート──連邦議会にも知らせなかったルーズヴェルト
 2.真珠湾攻撃──ルーズヴェルトの陰謀
 3.日米海軍の激闘と相互のリスペクト──船乗り同士の絆か
 4.ポツダム宣言──日本人は正確な内容を知らない
 5.広島・長崎への原爆投下──個人的な理由で大勢の人を殺戮
 6.条約違反のソ連の参戦──当然の権利を主張しない日本政府
4章 東京裁判の非合法性と、アメリカの狙い
 1.東京裁判──裁判を必要としたアメリカとWGIP
 2.東京裁判の非合法性(アメリカの世論も否定した東京裁判の正当性)
5章 日本国憲法
 1.日本国憲法──制定時の非民主的環境と非合法性
 2.護憲論の色々──安倍改憲案も護憲の一種
 3.憲法の選択肢──不文法憲法も選択肢のうち
6章 慰安婦問題
 1.フィクションをばらまいた面々──日本ではほぼ収束も戦場は海外へ
 2.オープンレターに対する保守からの本格的反撃
7章 日本人と欧米人の法意識の違い
 1.アメリカでは被疑者も堂々と──顔を覆わない被疑者
 2.朝鮮軍の満洲への越境と日本国憲法の非合法性の無視
 3.東日本大震災における津波とニューオーリンズの水害時の略奪の発生
 4.日露平和条約交渉で、ソ連の「日ソ中立条約違反の侵攻」を言わない安倍内閣
 5.日本の現状の問題と解決策

おわりに


 

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