復刻版 薄暮攻撃

松村 益二 著 2019.06.30 発行
ISBN 978-4-8024-0082-4 C0021 四六並製 248ページ 定価 1650円(本体 1500円)

「著者のメモ」より

復刻版 薄暮攻撃

僕は一等兵が好きである。僕が歩兵一等兵ではあるが、戦場の一等兵の義理人情は、こよなく美しい。一等兵の友情の中で、僕が戦争をすることが出来たのは、どうしても忘れることの出来ないことがらである。
一等兵には、いろいろな人間が生きている。僕はその生きている美しい一等兵を、いろいろと描きたいと思った。しかし、じっさい出来上がってみると、同じ色の軍服を着た一等兵にすぎなかった。ざんねんなことであるが、どうにもいたしかたのないことである。

さて、この本には、前著「一等兵戦死」以後の戦争に関するものを収めた。これらの作品には、いいものもわるいものも入っているが、いずれも僕にとっては、生死を的にしての後に生まれたものだけに、すてがたいので、集録したのである。そうしてこの大部分は「文藝春秋」「オール讀物」「話」「ホーム・ライフ」などに一度発表された。しかし、今度集録するにあたって、加筆改訂をほどこした。「一等兵の戦線」のごときは、発表当時五十余枚のものであったが、ここでは百余枚にもなっている。だが、何にしても短い期間のことではあり、新聞記者という本職のかたわらの仕事でもあるので、それはじつに荒っぽい改訂である。なおこの本の中の童話風の作品、童謡風のものは「大毎小学生新聞」に、子供のために書いたものであるが、やはり前記の意味で収めることにした。挿入の写真は、一等兵の僕が撮ったものである。

この本は、一月上旬上梓の予定であったが、本職の方に追われたり、病気になったり、またついなまけたりして、こんなにおくれてしまい、春秋社にたいへんな迷惑をかけてしまった。しかし、神田さんは僕に対しては親切にして下さった。まったく感謝に余りある。ここに識して今後の戒めにする次第である。

昭和十四年二月三日
大阪毎日編集局の一隅で識す
松村益二

目次


一等兵の微笑

愉快な兵九郎

一等兵の戦線
戦線の空/新しい一等兵/日本の煙草
南方の質商/一等兵須茂木重助
空爆見物/迫撃砲襲来/野戦場の歩哨
歩哨の感傷/話/苦悩の一等兵
空想の一章/戦線の糞/いい心持ち
攻撃準備/須茂木重助戦死
あわれ/再び前進して/戦場の位牌

詩・戦線抒情
小行李の馬
突撃の寸前
攻撃の後/森
尺牘抄/音楽
水牛/麦の芽
戦跡/敵屍

詩・野戦病院附近
野戦病院
負傷兵の酒保
酒保の庭
野戦病院のクリーク
野戦病院に働いている
支那人の子持ちの中年女

詩・陸軍病院抄

看護婦さん
ギプス



子供の戦争
出征
幸福
戦線の垣根
戦線情景


野戦病院まで

病院日記
上海兵站病院
小倉陸軍病院
善通寺陸軍病院

(故橋本久雄君の書簡)