本書『[復刻版]よみかた上・下巻』は、戦時中、小学校低学年の子供達が勉強していた国語教科書です。
■「よみかた」に込められた六つの素晴らしさ
本書の素晴らしさを六つ挙げます。一つ目は何よりも表現の美しさです。日本の自然、季節、動植物が描かれ、子供達は日本の四季の移ろいを改めて知ることができます。壮大な朝焼けの絵と共に「アカイ アカイ アサヒ アサヒ」という文章で始まることで「アサヒ読本」とも呼ばれました。
次に家族の存在です。父母兄弟、祖父母や先生がいつも子供達を気にかけています。そして家族の中で、他人を敬う言葉遣いを学んでいます。両親に対しては「お父さんが仰いました、お母さんはお喜びになりました」と敬いを持って話しています。戦後、子供達が大人を尊敬できない風潮が広がったことは日本にとって大きな損失だと改めて実感します。
三つ目はご皇室の有り難さを実感できるところです。子供達が皇居の二重橋の前で「君が代」を歌い、明治節を祝い、生活の中で皇室と一体となる姿が描かれています。
四つ目は神代の物語です。天孫降臨の国造りや、子供達が楽しんで読める因幡の白兎の故事など、日本の国の成り立ちについて、わくわくしながら学んでいます。
五つ目は四季に彩られる日々の生活の鮮やかさです。新年を祝い、鯉のぼりを見上げ、神棚にお参りをする。私達日本人にとっては当たり前のことだと思ってしまう「四季」の彩り、子供達が楽しみにする雛祭り、田植え、七夕、夏祭り、十五夜、雪遊びも全ては日本の歴史の長さがもたらしてくれるもの、伝統が与えてくれる豊かさなのです。
最後は国を護る「軍人さん」に感謝する気持ちです。兵士の兄を心から慕う弟、傷病兵の慰問、兵隊ごっこ、興亜奉公日に家族で黙祷を捧げることが、子供の目線から素直に描かれています。国や共同体や親族を守る公益への憧れを持てることが、果たして「危険なこと」なのでしょうか。
■今こそ、心の墨塗りの払拭を
ですがそんな『よみかた』も、戦後GHQの方針によって不適切と判断されたものは墨塗りにされてしまいました。私も墨塗り教科書を見たことがあります。自分が学んでいた教科書を自らの手で塗りつぶす子供達の心境を思うと胸が痛みます。終戦後の我が国は、こんな許し難い歴史を持っています。
令和現在の教育現場を見ると、墨塗り教科書は本当に過去のものなのだろうかと思ってしまいます。現在の子供達は、どこまで日本の伝統や美しさを学べているのでしょうか。一部の教科書を除いて、神話も偉人も出てこない教科書で学ばされています。現代の子供達、そして子供時代にこのような教科書で学ぶことができなかった私達戦後世代の大人にこそ、子供達にとって一番必要なものである国の歴史に胸躍らせ、自分の命の育みに連なるものごとに感謝の気持ちを持てる本書を読んでいただきたいと願う次第です。
この教科書には、春が訪れます、夏が来ます、秋が深まります、冬を迎えます。鳥は謡います、犬が駆けてきます、花が匂います、樹々が萌えます。父が守ります、母が慈しみます、兄弟姉妹が寄り添います、祖父母が見守ります。
この教科書には、日本があります。
戦後問題ジャーナリスト 佐波優子