最近になってやっと、中国の脅威が一般国民の間でも認識されるようになってきたと感じます。何しろ、目の前で香港の民主主義が無慈悲に粉砕され、ウイグル人などの非漢人民族(彼らは必ずしも少数民族ではない)が強制収容所に送られ、思想改造されたあげくに強制労働に従事させられている事実が白日のもとに晒されるに至って、世界も無視できなくなりました。平和ボケしきった日本人の耳にも、警鐘の鐘が鳴るようになりました。しかし、まだまだ十分ではありません。日本人の多くは、これらを自分の問題として捉えられていません。
中国の他民族弾圧は今に始まったことではありません。チベットに対する侵略と弾圧がなされたのは1940年代からですし、その後も天安門事件(1989年)など、中国の人権無視は枚挙にいとまがなく、制裁の機運が高まったこともありました。しかし、世界は長い間、そのような人権問題も基本的には中国の国内問題であり、自分たちに直接およばない問題だと見なしてきたのです。
しかし今、アメリカやオーストラリアの政府高官やインテリジェンス関係者が、中国の脅威はソ連の脅威を上回る戦後最大の脅威であると明言しています。それは一体なぜでしょうか?
ソ連の脅威は、その強大な軍事力と共産主義革命の輸出でした。そしてソ連は、そのことを隠そうともしませんでした。それは「目に見える対決」でした。日本は反共最前線の基地として米軍の保護下に置かれ、安全保障はアメリカに任せて、経済発展に邁進することで富を蓄えることに専念しました。その結果、共産主義国家ソ連という強大な敵と対峙しながらも、日本は冷戦構造のもとで繁栄を極めることができたのでした。ソ連は、鉄のカーテンの向こう側の敵でした。
一方、いつの間にか経済力と軍事力を蓄えて覇権国となった中国の脅威に世界が気づいたとき、中国はすでに国境内部に深く入り込んでいました。それは、人体に例えるならば、外傷というよりも、内臓をじわじわと蝕むガン細胞のような脅威だったのです。つまり、中国は内なる「目に見えぬ」敵だったのです。なぜ、そんなことが可能だったのでしょうか?
それは、中国が世界征服の野望をひた隠し、無害を装いながら膨大な人口を活かし、巨大な市場を提供するふりをしながら外国企業を取り込み、西側先進諸国と経済的な非分離性を確立していたからです。さらに、世界中に存在する中華系移民や留学生に至るまで、すべての中華系住民を工作員として活用し、社会のあらゆる角度から浸透工作を仕掛けて、戦わずしてターゲット国の属国化を進めました。各国が気づいたときは、もうどうしようもないほどガンのステージが上がっていました。豪州チャールズ・スタート大学のクライブ・ハミルトン教授は、それを「サイレント・インベージョン(静かなる侵略)」と呼びました。
ぎりぎりのところで覚醒した豪州は今、この中国のサイレント・インベージョンから国家主権を守るべく必死の戦いを続けていますが、広く転移したガン細胞を取り除くためには、自らの組織を摘出するような痛みに耐えなくてはなりません。経済的な損失も覚悟しなくてはなりません。これには、国民の広範な支持が必要です。
しかし、中国を経済的利益の観点からしか見られない経済人、特に日本の企業人たちは、人権問題に背中を向けてでも利益を優先することに恥じない傾向があります。これは、ガン細胞に侵されながら発ガン物質を食らい続けるような行為であり、企業のみならず、日本国の属国化をも推し進める危険な行為です。そして、日本政府はそのような企業人や財界人におもねり、有効な対策を講じられないまま、時間を無為に過ごしています。一部の政治家や政党が陥落して工作員化していることも明らかです。今や、覚醒したオーストラリアよりも日本の方が遥かに危険な状態にあると言っても過言ではありません。
事実上、我々はすでに第三次世界大戦に突入しています。しかし、今回の21世紀の戦争には大きな、そして極めて危険な特徴があります。それは、いつ始まっていつ終わるのか、不明確な戦争だということです。第二次世界大戦において、何を始まりとするかは諸説ありますが、国民は全員、戦争に突入したことを知っていましたし、敗戦に際しては天皇の玉音放送があり、降伏文書の調印があり、占領軍による統治期間を経て再独立がありました。国民は始めと終わりを認識していたし、せざるを得ませんでした。
ところが今、世界制覇を目指す中国に世界が仕掛けられている戦争は、始まりも終わりもはっきりしない、常識も限界もない戦争です。戦争している自覚もないままに、気がついたら浸透工作を受けて属国化しているというような、目に見えぬ戦争なのです。しかも、すでに相当やられているということが、本書をお読みいただければ理解できるでしょう。このままでは日本も遠からず、チベットやウイグルのようになってしまいます。もはや他人事ではないのです。
日本はこの、戦後最大の危機を乗り越えることができるでしょうか? それはひとえに、国民の覚醒にかかっています。国民が危機に目覚め、危機の本質を理解し、政治家や官僚を動かしていかねばなりません。受け身の態度でいれば、完全に手遅れになってしまいます。
本書は、そのような危機感に駆られて、日ごろ特に国際情勢や国際政治に関心を持っていない方や、高校生や大学生にも読んでもらいたいという願いを込めて上梓されました。ぜひ、ご一読の上、周囲の方々にもお勧めいただき、今そこにある国家的危機に対する国民的認識を高めていただけましたら幸甚です。それが、この日本という素晴らしい国を守り、子孫に残していくために必要不可欠で、かつ、急を要することなのです。