現在の日本は領土的な脅威にさらされているだけではなく、内部から「静かに」「目に見えぬ形で」蝕まれつつある。「ステルス(隠密)侵略」だ。
その舞台は中央政界から地方政界、地方自治体、財界や地方の経済界、教育の現場であり、中国による侵略は加速度を上げながら進み、日本はもはや、後戻りできるか、できないかの瀬戸際まで追い込まれているのが実態なのである。それを知らなければ、危機感を抱くこともできないし、問題意識を持つことすらままならないのは当然だ。
本書は、そんな危機的な状況を具体的な事例をもって一人でも多くの日本人に示すことで、どうすればこの国の伝統、文化を守り抜き、子々孫々に繋げていくことができるのかを考えるきっかけとなることを願って取材を進め、書き留めた。それが以下の内容だ。
中国共産党政権に頼まれるままに、あるいは自ら進んで記念行事で喜々として祝辞を述べる福田康夫元首相や河野洋平元衆院議長、二階俊博元自民党幹事長といった「日中友好人士」、朝貢団よろしく雁首そろえて訪中し、習近平国家主席に三跪九叩頭と見紛うばかりの平身低頭で拝謁する財界首脳たち。「地方外交」という甘言に乗り、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の罠にはまり、港湾の乗っ取りに手を差し伸べる大阪府・市の港湾や福岡市の博多港。「南のシンガポール、北の釧路」とおだてられて、北極圏ルートの拠点として利用されつつある釧路港など、一帯一路の橋頭保づくりに自ら手を差し伸べている地方自治体の能天気は救いようがない。
台湾有事になった際、日本も他人事ではない。それまでの中国への投資や所有する財産はすべて没収の憂き目に遭うのは火を見るより明らかだ。
上海電力による日本国内での太陽光発電施設が一例だが、昨今、地方自治体が前のめりになる中国との経済連携に共通するのは、身を隠して忍び寄るステルス作戦である。あたかもそれは、擬態して獲物を待ち構えて捕獲するハナカマキリの如く、気付いたときには手遅れになりかねない危険をはらんだ手法ともいえるのだ。チャーム・オフェンシブ(魅力攻勢)をかけながら、相手を篭絡し、我が物としていくのは国際政治の常道である。こうした微笑み外交と軍事的威嚇という硬軟の使い分けは、中国共産党政権の最も得意とするところである。
本書で特に警鐘を鳴らしたのは、わが国の中央政界への進出を図る中国共産党の影である。「役に立つ馬鹿」を間接的に利用するといった従来型のまどろっこしい手口ではなく、直接立候補させることにより、国会議員の座を射止めようとする動きである。NHK党を舞台にした立候補表明と直後の公認取り消し騒動を機に表面化した。中国などから帰化した日本人が国政に挑戦するのが悪いといっているのではない。多様な意見を国政に反映させるという意味ではむしろ、歓迎すべきことである。ただし、母国への思いは残すにしても、日本国民の代表である国会議員として、日本国への忠誠を誓う覚悟が前提であることは、米国など他国の例を見るまでもない。
それが、参院選の特定枠という制度を使って議席を買収しようという動きがあったというのだから驚きだ。参院選の公開党首討論会の場で、NHK党の立花孝志党首が問題提起しているにもかかわらず、私の知る限り、どのマスメディアも真相を究明しようとしないので、動画で事の経緯や心境を吐露していたNHK党の立花孝志党首に記者会見の場で真相を伺った。
本書ではこのほか、中国共産党のスパイに仕立て上げられた「成績優秀」な中国人留学生をめぐる事件や、日本人学生と違って税制上も優遇される中国人留学生の実態、日本国内の人手不足を補う労働力予備軍としての留学生や技能実習生、家族同伴で永住も可能な特定技能枠の拡大、シャインマスカットや和牛、イチゴなど、中国や韓国に盗まれ放題のブランド農産品の危機、止まらぬ外資による森林、土地買収の問題を取り上げた。
日本が、日本人自らの脇の甘さや、読みの甘さから墓穴を掘り、ハード、ソフト両面で中国による「静かなる侵略」を許している現状を打開するには、どうしたら良いのか。本書は現場に足を運びながら、その処方箋の一端を提示することを試みた。
世界は今、中露両国をはじめとする権威主義国家に対し、自由と民主主義という共通の価値観を掲げる西側諸国がお互いの存在意義と存亡をかけて戦っている渦中にある。
日本は、西側の自由主義陣営の一角として覚悟を決め、中国やロシア、北朝鮮などに冒険心をかきたてさせないよう、抑止力を高めるための防衛力を整備すること。同時に、日本国内で進む「静かなる侵略」の速度を少しでも緩めるための法整備や制度の見直しに早急に取り組むことが今後、重要となってくる。今日できることを明日に回さないことである。ただでさえ、民主国家は手続きが煩雑で何をやるにしても時間がかかる。取りかかって遅すぎることなどないのである。中国のような専制主義国家にあって、日本のような民主国家にないのはスピード感である。
何十年もかかる話ではない。国家が世界地図から消えるのは一瞬である。二〇五〇年、西日本が中国東海省、東日本が日本自治区に編入された極東地図が、期待を込めて中国のネット上で取り沙汰されている。今のままの日本であれば、妄想と片付けられない近未来に思えてならないのである。手をこまねいていては将来に禍根を残す。
中国の台湾侵略の蓋然性も高い。その意思も能力もある。感謝祭からクリスマスシーズンにかけて在日米軍が手薄になる時期が一番危うい。それは二〇二二年かもしれないし、二〇二三年かもしれない。日本も覚悟が必要だ。