中国共産党

毛沢東から習近平まで 異形の党の正体に迫る

小滝 透 著 2023.04.06 発行
ISBN 978-4-8024-0153-1 C0031 四六並製 328ページ 定価 1980円(本体 1800円)


序章

中国共産党 毛沢東から習近平まで 異形の党の正体に迫る

大英帝国がインドを経て清に至った時のこと、中国史上初めての状況が出現した。それは、延々と続いてきた中華帝国の伝統が清で途切れ、世界が天下でなくなったことである。
それまでの王朝は、国家ではなく天下であり、天朝朝貢冊封体制と呼ばれるシステムで周辺諸国を睥睨していた。それは文字通り、天命を受けて統治する王朝(天朝)が、周りの国々から朝貢を受け、それに対して冊封(官位と暦の授与)しながら天下を治める体制だった。それが易姓革命を経ながらも延々と続いてきたのがこの地の変わらぬ風景だった。
ところが、ここに異変が起こる。西欧列強、とりわけ大英帝国による侵攻が、この体制を根本的に変えたのだ。インドを席巻した大英帝国は阿片戦争、次いでアロー戦争の勝利を経て自由貿易を清朝に強要する。当初清朝は、西欧列強の侵攻を撫夷(夷狄をなつかせる)をもって懐柔しようと試みたが、ことここに至ってはもはや如何ともしがたかった。その結果、朝貢冊封体制は崩壊し、世界に君臨していた天朝も数ある国の一つとなり、近代国際関係のただ中に組み込まれた。
それを、国内的に追認したのが辛亥革命である。それは、「中華民国」の国号が明確に示している。この時、当地の支配は「天朝ではなく『国家』が担うもの」となり、その版図内の民衆は「国民」と呼ばれる存在へ移行してゆく。
それまでの天下には一人の国民もいなかった。そこにいたのは天子(天の子=皇帝)によって支配される天民と呼ばれる者だったが、彼らは二つの階級に分別され「漢字族」とも称すべき漢文を読め、漢語文化に親しんだ知識人や官僚と、それ以外の民衆に分けられた。一般に、前者が君子、後者が小人と呼ばれている者らである。この二者は厳格に峻別され、共にあることは一切なかった。ただ、この漢字族には、民族に関係なく誰でもが参加資格を持っており、かつてはこれが正式の中国人とされていた。 この概念はつい先ごろまで本邦の中国学会などにも残存し、中国文学の泰斗・吉川幸次郎は、学会の冒頭で「われわれ中国人は」とする挨拶からスピーチを始めたとの逸話がある。東夷である日本人も、中華文化に精通すると、中国人になれたのだ。
一方、この文化概念は、他民族への強い同化作用も及ぼした。長い中国史を見てみると、北方異民族に侵略され、その征服王朝が長く君臨していた時期もあったが、いつしか中華文明に啓蒙され、同化されてゆくのが常だった。この歴史観は長城外(関外)では通用せず、モンゴルもチベットもウイグルも中華文明に同化することはなく、またフロンティア諸民族が強大になり出すと逆朝貢が強要され、かつそうした諸民族も自らの文字を持ち、独自の文化文明を有することで中華世界から離脱していた。
だが、それでも何とか中華世界の面目は保っており、北狄の満洲族も清朝として君臨すると中華文明を採用し、その支配をなしている。
ところが、西欧は違っていた。彼らはいささかも中華文明に篭絡されず、却ってその文明を浸透させ、中国社会を欧化してゆく。これは中国史上初めての現象だった。
辛亥革命から始まる中国の近代史は、まさにこの欧化の中で進行してゆく。と同時に、それは列強諸国(西欧・ロシア・日本)に虫食いのように侵食され、半植民地になる屈辱の時代の到来だった。彼らが言う「百年の屈辱」が始まったのだ。今から述べる中国共産党は、この屈辱のただ中で誕生した。
では、その共産党の過去と現在、そして近未来につき、以下において語ってゆきたい。


目次


序章 近代中国は天下を止めて国家となった

第一章 中国共産党前史
清朝は五つの国を束ねる「同君連合国家」だった
太平天国と義和団の乱
西欧の侵攻──朝鮮朝と日本、そして清の対応
日清戦争は中国の変革を促した
日清戦争は、日本への模倣と憤怒を与えた
朝鮮朝も西欧に学べなかった
王冠は敗戦を生き延びられず
辛亥革命と軍閥割拠
国共合作と北伐と
上海クーデターから長征へ
北伐成る
第一章のまとめ

第二章 中華人民共和国
剣とペン
中国国盗り物語(一)──人民解放軍の幼児体験
中国国盗り物語(二)──人民解放軍は決戦を回避する
中国国盗り物語(三)──人民解放軍は軍閥の寄せ集め
ゲマインデ(閉鎖共同体)と粛清と
毛沢東とは何者か(一)──革命の原点は農民暴動
毛沢東とは何者か(二)──知識人へのコンプレックス
毛沢東とは何者か(三)──人間不信と権力闘争
毛沢東の戦争戦略──持久戦論と遊撃戦論
胡適の「日本切腹、中国介錯論」
四つ巴の国際関係
米ソの中国介入と共産党の対米政策
日本の敗戦、撤退、そして占領体制
蒋介石の要請──旧日本陸軍の将官、台湾へ渡る
その後の台湾
第二章のまとめ

第三章 毛の戦争、毛の内乱
中国の国の形(一)──中国は連邦制を採らなかった
中国の国の形(二)──統一中国への懸念
戦争と内乱と
朝鮮戦争(一)──毛沢東は対米戦に踏み切った
朝鮮戦争(二)──毛沢東は対外戦を内政改革に利用した
台湾海峡戦争
毛沢東の失政
中印戦争、そしてチベット蜂起
文化大革命(一)──毛沢東、奪権闘争を開始す
文化大革命(二)──逆ユートピアの終焉
ソビエトとの確執(一)──対ソ全面戦争の危機
ソビエトとの確執(二)──アメリカへの接近
第三章のまとめ

第四章 改革開放──人民中国第二革命
周恩来の死──第一次天安門事件
四人組の最後
最後に鄧小平が勝ち残った──文革の終焉
共産党独裁下の資本主義(改革開放)
香港に追い付け──経済特区、設立される
第二次天安門事件の虐殺
鄧小平の南巡講話
先富論の行き着く果て
人々は宗教にのめりこんだ
鄧小平以後(一)──江沢民の抜擢
鄧小平以後(二)──資本家の入党
鄧小平以後(三)──胡錦涛、チベット自治区に赴任
鄧小平以後(四)──小康社会の実現失敗
第四章のまとめ

第五章 今、中国は
新中国は西欧の全面コピーで出来上がった
一帯一路(一)──中国は禁断の両生国家に踏み込んだ
一帯一路(二)──中国の領土観
一帯一路(三)──帝国の墓場、イスラム世界
一帯一路(四)──韜光養晦を怠った中国
帝国の衛星国(一)──北朝鮮の懸念
帝国の衛星国(二)──社会主義国家間の確執
中国の人民支配
中国の社会事情(一)──労働倫理の欠如
中国の社会事情(二)──格差社会、赤字拡大、解放軍の綱紀粛正
第五章のまとめ

第六章 中国の近未来
和平演変は起こらない
中央対地方の競合
人口動態と自然破壊
アメリカの気付き──冷戦は続いていた
文武の均衡を失った帝国
地政学に見る中国の終焉
コロナ禍
ロシアのウクライナ侵攻
中国の困惑──ウクライナ侵攻でヤルタ体制は崩壊する
日本の選択
第六章のまとめ

解説 「国家」としての中国近現代史──三浦小太郎
西欧列強の侵略がもたらした内的自己と外的自己の分裂
日清戦争から辛亥革命へ
毛沢東と共産党の現代史
毛沢東にとっての戦争と内政
鄧小平以後から現代まで──アキュート・アノミーの時代


 

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