世界を見渡せば、日本がいかに危機的な状況に置かれているかが見えてくる。
二〇一三年九月十日、当時のオバマ大統領がシリアに関する演説の中で、「米国は世界の警察官ではない」と宣言した通り、米国はもはや、ウクライナ、中東、台湾という三正面作戦どころか、その一つ一つの事案にも正面から向き合うのが難しい状況に陥っている。イラク戦争に始まり、長期にわたったアフガニスタン戦争での疲弊による。
つまり、ウクライナとロシアの戦闘が激しさを増し、中東の戦争がハマスの後ろ盾となっているイランなどへ飛び火すれば米軍の力が分散し、それだけ台湾併呑を狙う中国を利する環境が整うのである。台湾有事は、日本有事を意味する。
振り返ってわが国の現状はどうか。少子高齢化による労働力不足を外国人労働者で補うため、移民推進に大きく舵を切り、多文化共生などと美辞麗句を並べて、そこで起きる治安や福祉などの問題を地方の住民に押し付けて、受け入れ側の日本人らを置き去りにしている。政府や自治体は一様に、多文化共生などといっているが、一部の地域を除けば、実態は中華文化との共生である。
中国系企業に勤め、中国人上司にお茶を入れる。過酷なノルマを強いられ、それが達成できなければいとも簡単に解雇される。近所の高級タワーマンションには中国人の富裕層が住み、自治会費を払いたくないなどといって自治会には所属しないのに、地域の祭りなどの行事にはタダ乗りする。それでいて、団地内に違法菜園をつくり、それを注意されると「団地を乗っ取ってやる」などと逆切れする。
これはすべて、筆者が取材した先で目にし、耳にした事実である。伊豆・修善寺の中国系ホテルの日本人従業員がそうであったし、千葉市美浜区や埼玉県川口市のチャイナ団地の中国人住民がそうであった。多文化共生などと安易に口にする人は、一度現場を訪れて日本人住民の声を聞いたらどうか。
筆者は産経新聞九州総局長をしていた二〇一八年、鹿児島県奄美市に中国の大型クルーズ船寄港問題が起きてから、中国資本による日本の土地買収や観光客による爆買い、移住推進、医療保険タダ乗り問題などを定点観測し、必要に応じて取材してきた。
残念ながら、現状は、外国資本、とりわけ資金力に勝る中国資本の導入に躍起となる日本政府、経済界、地方自治体の積極的な誘致活動により、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に絡め取られてしまっている。騙されたことに気付いて、慌てて彼らと手を切ろうと思っても後の祭りだ。何しろ、相手は共産党の意向がすべてに優先する国家レベルの反社会勢力だ。首長も地方議員も、財界幹部も、「中日友好」「ウィン、ウィンの関係」などという中国側の甘言に騙されてはいけない。
本書では、中国への投資を呼びかける一方で日本人を理由も公表しないまま拉致、拘束する中国当局による「日本人狩り」や安全保障上、大きな懸念のある沖縄・離島を買収する中国系企業、日本をはじめ他国の主権侵害に当たる「非公式海外警察」による違法な活動実態、日本の国立研究機関に巣くう中国人研究者によるスパイ網、戦前日本による満蒙開拓団を彷彿とさせる中国式農場の関東平野への出現など、この一年間で顕在化した様々な事案を取り上げた。
本書を貫くテーマは、いつも通り「中国による静かなる侵略」であるが、今回はそれに加えて、大分県日出町を舞台としたムスリムによる土葬問題、埼玉県川口市で住民を震え上がらせる触法クルド人問題を新たに取り上げ、欧州各国が失敗した「移民政策」を日本が繰り返すことの愚かさを論考した。移民政策に寛容な姿勢を示すことこそが、リベラルで先進的な考えであるという、何となく日本に蔓延する浅慮や誤解も指摘した。
母国で経済的に苦しむ移民は、ひとたび他国の土を踏んだら、何代にもわたって渡航先の国で経済的な成功を目指し、決して帰国しようとしないものであることは、ドイツのトルコ系住民がそうであるし、フランスに移民したアフリカ系住民が教えてくれている。
同じことは日本にも言えるのだ。決して対岸の火事ではない。彼らが経済格差や社会的格差から「虐げられた」と感じる境遇への不満が爆発したとき、それは治安の悪化という形で噴出するし、日本人住民との決定的な軋轢となって社会問題化するのである。