第一次世界大戦中、英国は反独世論を高めるために、世界中で反独宣伝を展開した。
本書はその一環であり、英国が日本に向けて送り込んだ反独文書である。全編を通じ、ドイツ軍によるベルギーの女性・子供・聖職者等に対する残虐非道の数々が描かれている。
『是でも武士か』というタイトルは、武士道精神を有する日本人は、武士道のかけらもないドイツ人をどう見るのか、と問うたものである。
大東亜戦争中、日本の対米謀略放送を指導した池田徳眞(十五代将軍徳川慶喜の孫)は、本書を「残虐宣伝の不朽の名著」と呼んだ。池田は本書から進んだ英国の宣伝技術とプロパガンダの本質を学んだが、本書によって自身のドイツ人観が一生歪められてしまったという。
ラマカースの不気味な風刺画を効果的に配置し、読者にドイツ人への心理的嫌悪感を与えるよう設計された本書の威力は、それほど凄まじいものであった。この英国の世界的宣伝が大戦の帰趨を決し、ドイツは敗北したとされる。
大成功を収めたこの残虐宣伝の技法は、その後の反日宣伝に利用された。「南京大虐殺」プロパガンダは、中国国民党がその宣伝の技法を取り入れたものである。「レイプ・オブ・ベルギー」という言葉は、「レイプ・オブ・ナンキン」に置き換わり、赤ちゃんを銃剣で串刺しにするドイツ兵は、日本兵に置き換わった。そしてさらに「捕虜虐待」「731部隊」「従軍慰安婦」等の反日宣伝が続き、日本軍の残虐性は世界に定着することになる。
著者は日本の農村を研究するため来日していたが、駐日英国大使に反独親英の宣伝活動を依頼された。著者夫妻は、当時貴族院書記官長だった民俗学者の柳田國男と親交が厚く、夫人から本書翻訳者の紹介を依頼された柳田は、匿名を条件に翻訳を引き受けている。
目次
緒言 画家ラマカースとその序説
一 ベルギー侵入以前
第一章 ドイツ、四条約でベルギーの中立を尊重
第二章 ドイツ大臣の四回にわたる約束
二 ベルギー侵入
第三章 ベルギー侵略される
第四章 ドイツの口実
第五章 英国開戦の決断
第六章 殺人犯が被害者の人格を非難
第七章 第一次世界大戦におけるベルギーの軍事的功績
第八章 ベルギーでの蛮行
第九章 六都市の惨事
一 「科学的かつ計画的な」ルーヴェンの破壊
二 タミンヌでの六百五十人の犠牲者
三 ディナンにおける八百人の殺戮
四 アンダンヌで独兵、斧を振るい殺戮
五 アールスホットの死体発掘
六 ナミュールにおける二千人の虐殺
第十章 戦慄すべき英国調査委員会の調査結果
第十一章 事実認定の根拠となる実例
一 「入念かつ組織的に企図された」虐殺、殺人及び暴行
二 女性に対する暴行
三 人間の楯
四 負傷者及び捕虜の殺害
五 掠奪及び無慈悲な破壊
六 組織的な放火
第十二章 犯罪の事実とドイツの解釈
三 ベルギー占領
第十三章 占領中も続くベルギー人への虐待
一 窃盗、罰金、課税による強奪
二 ベルギー人は如何に欠乏に苦しめられたか
三 民事裁判が如何に否定されてきたか
四 キャヴェル女史の処刑
四 歴史的事実
第十四章 ベルギー侵入、その動機の噓
第十五章 妨害された英独友好の努力
第十六章 英国は如何にして二度戦争を防いだか
第十七章 ドイツの大いなる目的 世界征服計画
第十八章 ドイツはなぜこの戦争を強行したのか
第十九章 欧州戦争前後の外交
第二十章 連合国は何のために戦うか
第二十一章 他の列国も非難されるべきか
第二十二章 英国人はドイツ人を憎んでいたか
第二十三章 全体の結論
付録
世界史に見る英国人の特性 スイス人記者が集めた過去百年間の事跡
日本人記者が記した今次戦争における英国人の特性
一 東京日々新聞
二 ヘラルド・オブ・アジア
英国人の武士道 フランス人記者の英国魂観、大和魂観
解説
敵を理解し「対日プロパガンダ」に対抗せよ! 大高 未貴