ダライ・ラマの智慧

幸せな生き方 満ち足りた死に方

ダライ・ラマ十四世 テンジン・ギャツォ 著 ペマ・ギャルポ 監修 家村 佳予子 翻訳
2025.03.21 発行
ISBN 978-4-8024-0177-7 C0015 四六並製 264ページ 定価 1980円(本体 1800円)



「はじめに」より抜粋

ダライ・ラマの智慧

ダライ・ラマ法王(テンジン・ギャツォ Tenzin Gyatso)の普遍的責任財団は、法王の思想、教え、そして分裂し混乱した世界に対するメッセージを、法王ご自身の言葉をもって、この序文でご紹介できることを嬉しく、光栄に思います。

農民の両親のもとに生まれたテンジン・ギャツォは、自らを「素朴な仏教僧」と表現しています。彼は、人間のありよう、なぜ人は苦しみを経験するのか、そして私たち全員が幸福を見出す方法についての深い洞察により、世界中の何百万もの人々から称賛されています。これは、人類の歴史の中で進化した最も洗練された複雑な精神的技法と実践に、彼が個人的に深く関わり続け、経験してきたことによって培われたものです。

彼は世界中の仏教徒にとっての信仰の権化であり、人間の最高の願望を体現しています。仏教徒にとって、ダライ・ラマは菩薩であり、人類を教え奉仕するために、老い、病、死という避けることのできない苦しみを伴う人間の姿に生まれることを、意識的に選んだ者なのです。

中国が大量虐殺を続けているにもかかわらず、六百万人以上のチベット人にとって、ダライ・ラマはチベットの未来への希望を象徴しています。そこでは、古代と現代を融合させた古い文明を自由に復活させ、彼のビジョンを現実のものとすることができるのです。ダライ・ラマは、仏教の教えを守りながら、亡命チベット人の民主化のための努力を続けています。チベットの問題は、ダライ・ラマの将来ではなく、チベット内外のすべてのチベット人の権利と自由の問題であると、彼はたびたび主張しています。今日、亡命先には選挙で選ばれた自治議会、首相、司法制度があります。ダライ・ラマは、チベットの大義の世俗的な指導者の地位から退くことを許されるよう、繰り返し嘆願しています。彼の卓越した世界的地位とチベットの人々の献身が、彼がチベットの大義の中心であり続けていることを意味しています。

世界中の何百万人もの人々にとって、彼は単に「法王」であり、常に微笑みを絶やさない顔、慈悲、利他主義、そして平和のメッセージで親しまれています。

ダライ・ラマは、他の偉大な師同様、教えることを体現し、説くことを実践しています。彼は、毎日午前四時に始まり、数時間続く規則的な実践を日課としています。彼は今でも、他のラマ僧から指導を受け、イニシエーションを授かっています。彼には、すべてを包括する悟りの絶頂も、啓示的な瞬間もありません。信奉者たちからは、生きる仏陀とみなされ讃えられていますが、彼自身はそのような主張はしていません。仏陀と同様、彼は私たちと同じ「普通」の人間です。道の段階を実践することで、私たちは皆幸福を見出し、苦しみを回避することができるのです。

法王は、地球上に住む一人ひとりのユニークさ、つまり、個々のニーズ、背景、視点を認識し、多様性を称賛しています。法王は、私たちがあらゆる伝統から学ぶことができ、また学ばなければならないように、法王の洞察と経験から学ぶことを私たちに勧めていますが、同時に、私たち自身の学びと個人的な成長の旅を進化させるように助言もしています。ダライ・ラマは、いかなる師や教えに対しても最も厳格な精査を奨励し、誰かに身を委ねる前に細心の注意を払うよう促し、精神的な素人好事家を思いとどまらせます。道には近道はありません。幸福と悟りへの週末、一週間、短期コースはありません。旅は目的地であり、旅に乗り出す時間は、絶え間なく展開する現在なのです。

ダライ・ラマの折衷的で包括的なビジョンは、チベットの人々の権利や現代の偉大な精神的指導者の一人としての立場を超えて、より広い世界に手を差し伸べるように導いています。他宗教との真の対話、科学者、政治家、学者、実業家、活動家たちとの対話など、さまざまな人々や団体に手を差し伸べることで、「多様性の中の統一」という融合した祝福を超えて、自分自身、互い、地球、宇宙と調和し、平和に共存する方法についての理解を深めることができるのです。本書は、史上偉大な精神的、宗教的指導者の一人と共に、この旅を始めるようあなたを誘います。





目次


はじめに

第一章 幸せについて
 人生の目的とは何か
 愛の必要性
 思いやり
 思いやりへの第一歩
 友人と敵
 思いやりと世界

第二章 仏教とは何か
 妄想から自分を解放する手段
 仏陀
 チベットのダルマ

第三章 仏教の基本的な教え
 四諦(四つの聖なる真理)
 八正道
 基本的な倫理
 師を選ぶ

第四章 カルマの法則
 人間として生まれた幸運をどのように活かすべきか
 原因と結果(因果)
 意識と輪廻
 カルマの結果
 内なる敵
 輪廻
 行為の種類
 三帰依

第五章 心の変容
 仏教とは何なのか
 ダルマの目的
 煩悩
 マインドフルネスを保つ

第六章 瞑想法
 瞑想への道
 姿勢と呼吸
 静寂にとどまる
 集中状態

第七章 覚醒
 菩提心とは
 仏性
 菩提心を育むための手段
 七つの心の訓練法(七事の心の訓練法)
 実践することの意味

第八章 心を修練する八つの教え
 偈

第九章 有意義な生と死
 死という課題
 恐れを克服する
 精神的な実践としての死

第十章 空を理解する
 幸せと満足の達成
 縁起
 現象の本質
 空の瞑想

第十一章 普遍的な責任
 暴力を排除するために
 一人ひとりの思いが社会を変える

第十二章 科学の岐路で

謝辞
日本での刊行に寄せて
ダライ・ラマ法王とは ペマ・ギャルポ