[復刻版]初等科理科

文部省 著 佐波 優子 解説 2024.09.18 発行
ISBN 978-4-8024-0184-5 C0021 A5並製 352ページ 定価 2530円(本体 2300円)


「解説」より一部抜粋

復刻版 初等科理科

『初等科理科』が目指したのは、「科学は自然を征服するためではなく、自然と和するためのもの」という教育理念でした。これは、日本の伝統的な自然観を反映したものであり、自然と共に生きるということを基盤に据えた教育方針が示されています。

実際の教科書を見てみると、一年を通じて四季の美しさを教え、私達が自然の中で生かされていることを実感させてくれます。私達は偉大な自然の恩恵を受けているということを知ることができます。

また児童たちは授業を通じて、人間が自然を意のままに出来るわけではないことを知り、自然に対して畏敬や畏怖の念を持つようになります。これは日本が古来から森羅万象を神々として敬い畏れてもきた悠久の歴史に連なることになるのです。

自然に親しみ、自然から学ぶために、指導目標では植物の栽培や動物の飼育をすすめています。子供達が自分で栽培や飼育をすれば、その植物や動物に愛着を感じ、多くの注意を払うからです。

こうした教育方針は、単に動植物を可愛がるだけのものではなく、農業を営むための基礎と考えられました。子供達が農業の仕事を体験することは、食べ物が育っていく過程を実感し、食べ物を生命として慈しむことにも繋がります。こうした心を持って農作業を行えば、生産された農作物の真の価値がわかり、より大切に、食材として使用し食べ物として頂くという態度が生じて来ます。このことを教師用副読本には「このような心は、農業の根本精神であるばかりでなく、すべてのものをよりよく生かそうとする豊かな我が国民精神の一つの相である」とまで書いてあるのです。これはもう、理科の授業というよりも、人間の生き方そのものの教育なのではないでしょうか。

『初等科理科』に流れる「理科」教育の精神は、身の回りのものに目を向け、生きているものを慈しみ、自然を使わせていただくという感謝の気持ちを持つ、総合的な日本人としての生きる力を育む、人間としての生き方の哲学だったのです。

私は今の時代の子供達にこそ、『初等科理科』の精神を学び、日本のために、地域や家族や個人のために役立てて欲しいと思っています。

目次


初等科理科一(第四学年)
1 イモの植えつけ
2 兎のせわ
3 チョウと青虫
4 モミまき
5 田の土 畠の土
6 田や畠の虫
7 小川の貝
8 田植
9 森の中
10 クモ
11 イモほり
12 でんわ遊び
13 稲田
14 紙だま鉄砲
15 鳴く虫
16 イモほりと種まき
17 とり入れ
18 デンプンとり
19 うがい水
20 渡り鳥
21 おきあがりこぼし
22 生き物の冬越し
23 コンロと湯わかし
24 春の天気

初等科理科二(第五学年)
1 鶏のせわ
2 キュウリと草花
3 花とミツバチ
4 蚕と桑
5 写真機
6 油しぼり
7 夏の天気
8 夏の衛生
9 ポンプ
10 秋の天気
11 こと・ふえ・たいこ
12 火と空気
13 家
14 冬の天気
15 甘酒とアルコール
16 私たちの研究

初等科理科三(第六学年)
1 アサとワタ
2 山と水
3 海と船
4 砂と石
5 私たちのからだ
6 アサの刈りとり
7 自転車
8 電燈
9 きもの
10 金物
11 メッキ
12 電信機と電鈴
13 電動機
14 たこと飛行機
15 私たちの研究

 解説 佐波優子