
『こどものしつけ』の初版は昭和十六年に刊行されました。小学校一・二年生向けの修身の教科書です。日常生活における礼儀や言葉遣い、両親や親戚に対する際の態度や友達との付き合い方、生活の中に溶け込んでいる行事、祝祭日の過ごし方等が、美しい挿絵と共に目に飛び込んできます。
小学校一・二年生が理解できる短い文章からは、先人たちが培ってきた日本人としての価値観、行動様式の美しさが伝わってきます。特に一年生の教科書では、子供たちに伝わるように挿絵の工夫がされていて、優しいタッチの絵や語りかけるような文章は、一年生の子供たちに心理的な負担が掛からない配慮がなされていると筆者は感じます。
二年生になると文章が少し長くなり、教育的な方向性が感じられます。開戦の年の刊行ですので、日本軍に関する記述も登場しますが、それは否定的な内容ではなく、勇ましくて頼もしい姿を子供たちに示しています。
年上の友人や大人、目上の方に対する言葉遣い、礼儀や態度、家庭の中での過ごし方、両親・祖父母・兄弟姉妹、ご近所の方との付き合い方やきめ細かい所作が、挿絵を通して子供たちの心にすんなりと浸透していくように筆者は感じます。
また、美しい挿絵には昭和十六年当時の日本の風景が描かれており、今を生きる私たちに内在化されている古き良き日本の姿がありありと浮かんできます。
内容を読んでみますと、リズミカルな美しい言葉が織りなすハーモニーを感じられます。ハーモニーとは調和ですから、日本人の調和の心が感じられる文章と言えます。子供のうちから真善美に触れることは情操教育に繋がります。教科書から感じ取る真善美は、特別な場所に行ったり、その機会を得なくとも、教科書をひらけば出会える。なんとも贅沢なことです。日本人の情操教育は学校や家庭で過ごす生活の中で育まれてきたのです。
次世代の日本を担う大人は、今の子供たちです。その子供たちを日本人としての在るべき姿に導いていくのは私たち大人です。その大人が日本人としての価値観・感性を取り戻すことが大切です。『こどものしつけ』は小学校一年生と二年生用の教科書ですが、今を生きる大人にとっても大切な教科書であると言えます。
できれば繰り返し何度も読んで頂きたいと思います。静かに黙読をするもよし、声に出して美しいリズムとハーモニーを感じるもよし、お子さんやお孫さんに読み聞かせるもよし。一冊で幾通りもの楽しみ方ができる良書であると言えます。