
一九四〇年から終戦まで、戦時体制が強化され、「皇国史観」も教育で徹底されたと言われます。この時期に導入された歴史教科書が本書『歴史 皇国篇』です。
戦前の歴史授業では、「皇国史観」とともに、民族主義や国粋主義ゴリゴリの教育が押し付けられていたかのようなイメージがあります。もちろん、当時の大東亜戦争を勝ち抜くために、国威発揚を図らねばならず、教育においても、皇室崇敬、戦争美化、国家主義が称揚されている部分は少なからずあります。
ただし、それは抑制的なものであったことが、本書によって、明確に理解できます。当時の世界の教科書規準と比べてみても、我が国の教科書だけが突出して、国家主義的であったとは言えません。まして、欧米の教科書や思想にありがちな民族優位主義は全くと言ってよい程に無縁、「東亜の平和」が繰り返し説かれ、先人たちが世界の諸民族の協和を切望していたことが本書から読み取れます。
よく、戦前の教育が「皇国史観」により、歴史の事実をねじ曲げ、天皇絶対を強いたなどと言われますが、本書を見る限り、そのような極論が書かれていることはありません。
『日本書紀』や『古事記』を単なる神話と見なし、それらは史実と異なるため、学校の歴史教育で神武天皇の建国などを教えてはいけないとする主張がメディアや教育界にあります。
『日本書紀』や『古事記』は歴史として残された貴重な文脈(context)であり、真実か虚構かという問題を超えて、それらと向き合わねば、我々は日本人としての根源を失ってしまいます。
天皇と日本の歴史の本源的意味を学ばせるような学校教育が必要であることを、本書をはじめとする戦前の教科書は教えます。我々の父祖は天皇とともに、歴史を歩んできました。先人たちに思いを馳せながら、その歩みを一層、輝かせたいものです。