今から七十年前に、日本は未曾有の敗戦の苦痛を経験し、その後遺症を受けて、現在に至っている。
毎年夏になると、日本のメディアは、中国や韓国のような反日的な見方で、戦前の日本や「大東亜戦争」を悪玉に仕立てた番組をさかんに放送するが、その見方はとても客観的なものとは言えないだろう。
この風潮に拍車をかけたのが終戦五十周年に当たる平成七年八月十五日に、旧社会党委員長の村山富市元首相が記者会見で語った「大東亜戦争はアジア諸国に対する侵略的行為だった」とする談話である。
この「村山談話」が発表されてからというもの、日本ではいつのまにか「大東亜戦争=侵略戦争」というイメージが形作られてしまったような気がする。
村山談話とは、同年六月九日に、新進党や自民党および社会党の一部が不参加の衆院本会議において、与党による賛成多数で、大東亜戦争に対する反省を明確にした「戦後五十年決議」を行った後、細川内閣より与党第一党から転落した自民党と他の連立与党(社会党、新党さきがけ)によって、八月十五日に閣議決定されたものであって、政府による綿密な議論や検証によって作られたものではない。
にもかかわらず、自民党は政権を取り戻した後も、自虐的な歴史認識を容認した村山談話を訂正しないばかりか、民族派と言われる安倍首相さえも、この談話を継承する始末である。
そもそも、大東亜戦争の誘因の一つは、連合国最高司令官マッカーサー元帥が回想記で指摘しているように、「日本がルーズベルト大統領によってはじめられた経済制裁をおそれたことにあった」ことは明らかである。
日本は昭和十六年十二月八日に、自存自衛と大東亜共栄圏の理想を実現するべく、日本を戦争に追い込んだ西欧列強に立ち向かったが、これは、十三世紀中頃に「モンゴル帝国」が西欧列強に与えた衝撃とは質を異にする、次の三つの衝撃を与えたのである。
その第一の衝撃とは、日本軍の進攻によって、東南アジア全域が数百年間に及ぶ白人の植民地支配から解放されたことである。
第二の衝撃とは、日本軍が従来の白人優位の社会体制を崩壊させたことによって、それまで特権的な地位についていた白人は、その地位から引きずり降ろされ、アジア人の政治意識の覚醒がもたらされたことである。
第三の衝撃とは、日本軍政(日本軍の占領地行政)の内容である。日本軍政には主に日本人が重要な地位に就いたが、東南アジアの人々にも多くの責任ある地位が与えられたのである。
また東南アジアの各地では教育に力が注がれ、子弟の中から選ばれた二百名の国費留学生が将来、東南アジア諸国の指導者となるために、南方特別留学生として日本へ派遣され、育成されたが、この日本軍政の中でも、最大の貢献は、アジア諸国の青年たちに軍事訓練を施したことである。
日本軍が昭和二十年八月十五日に、連合国に降伏すると、東南アジア諸国の人々は再びアジアに侵攻してきた植民地宗主国のオランダ、イギリス、フランスの軍隊に対して、果敢に抵抗し得たのも、日本軍が遺した軍事的遺産と「独立は与えられるものではなく、自らの手で勝ちとるものである」という精神的遺産があったからに他ならない。
本書は、アジアに与えた大東亜戦争の衝撃によって、アジア諸民族がどのように政治意識に目覚め、民族の自尊心と勇気を取り戻し、民族解放戦争や民族独立運動に立ちあがったのかを検証するとともに、日本が戦時中からアジアの発展に対して、どのような教育的投資を行ったのかを検証したものである。
このことは、戦後のアジア独立の要因を解明する上で、非常に重要なものであると同時に、果たして大東亜戦争が侵略的動機から行われたものだったのか否かを明らかにする上でも、重要な意味を持つものなのである。
こうした問題意識から、本書では大東亜戦争の長所と短所の比較検討を通じて、大東亜戦争が決して、侵略的動機から行われたものではなく、むしろ所期の目的をはるかに超えた衝撃をアジアに与え、それがアジアの独立につながったことで、戦後のアジアは、今日の国際政治や国際経済の動向を大きく左右する存在となっていったことを考察した。
本書は、日本唯一の秘密戦士の養成所、陸軍中野学校の出身者で構成された藤原機関(F機関)、南機関、参謀部別班を始めとする秘密戦士たちのアジア解放の真心を読者に伝えるために、彼らの回想録、関係者へのインタビュー、新聞記事などを中心に、多くの参考文献を引用した人間記録でもある。
読者は、ここから、彼らがどれほど果敢不休の活躍を行ったか、また彼らから軍事訓練を受けたアジアの青年たちが、どれほど規律、敢闘精神、民族の自尊心というものを植えつけられたかが、読み取れるはずである。
著者は、本書を執筆しながら、小説よりも奇なる大東亜戦争の衝撃に心を打たれた。
ここに、謹んで本書をアジア解放のために散華した英霊に捧げたいと思う次第である。
大東亜戦争がアジアに与えた衝撃は、今でもアジアの遺産となって、アジアの独立と発展を支えていると確信するのである。