その犬の名前は「ゴン」といいました。
ゴンは、和歌山県九度山町に、ふらりと現われた白いノラ犬です。
平成元年、そのオス犬は、誰が教えたわけでもないのに、町のお寺・慈尊院から、弘法大師の御山である高野山まで、参拝者をガイドしはじめました。
けれども、お寺の住職・安念清邦さんは、小さいころから犬が嫌いでした。
それでも、ゴンはお寺にやってきては、参拝者たちの道案内をつづけました。
20キロはなれた高野山までつづく山道を歩くゴンのすがたに、さすがの犬嫌いの住職も、心引かれるものがあったのでしょう。
やがて、住職はゴンの飼い主になることを決意しました。
歳月が流れ、ゴンは多くの人々から「お大師さんの犬」「弘法大師の使いの名犬」とよばれるようになりました。
犬が嫌いだった住職が飼い主になったのは、ゴンが「えらい犬」だったからでも「立派な犬」だったからでもありません。
住職にとってのゴンは、かけがえのない「家族」「友人」だったからです。
平成一四年、ゴンは、この世を去っていきました。その後、この雑種犬は石像となり、その「やさしさ」をいろいろな人が語り継いでいます。
そんなゴンの生涯とは、どのようなものだったのでしょうか……。