世界史から見た日清・日露大戦争

侵略の世界史を変えた日清・日露大戦争の真実

吉本 貞昭 著 2015.04.27 発行
ISBN 978-4-89295-997-4 C0021 四六上製 424ページ 定価 3080円(本体 2800円)


欧米列強の植民地支配はなぜ始まったのか?

帝国主義はなぜ生まれてきたのか?

日本はなぜ東アジア最強の清国に勝てたのか?

日本はなぜ世界屈指の軍事大国ロシアに勝てたのか?

世界は日清・日露戦争をどのように見ているのか?

──こうした疑問に、すべて答えます!


はじめに――なぜ今、この本を書かなければならないのか

世界史から見た日清・日露大戦争

平成32(2020)年に、東京で第32回目の夏季オリンピック大会が開催されることが決まった。日本が夏季オリンピック大会に初めて出場したのは大正元(1912)年に、スウェーデンで開催された第5回ストックホルム大会であった。

その後、日本は、オランダの第9回アムステルダム大会(1928年)、アメリカの第10回ロサンゼルス大会(1932年)に出場し、三段跳び、水泳、乗馬などで金メダルを獲得したが、昭和11(1936)年に、日本が最後に出場した第11回ベルリン大会での参加国は、わずか49カ国に過ぎなかった。

これに対して、昭和39(1964)年に開催された第18回夏季オリンピック東京大会は、93カ国もの国が参加した有色人種国家における史上初のオリンピックでもあったわけである。

戦前の夏季オリンピックは、白人国家の独占物のような存在で、有色人種の国家からの出場は、ごくわずかであったが、平成24(2012)年に開催されたロンドン大会では204の国家・地域・団体が参加したことから、今や夏季オリンピック大会の大部分は、有色人種の国家・地域・団体からの参加であることは疑う余地はないだろう。

その理由は、日本が大東亜戦争でコロンブスの時代から始まった西欧列強による植民地支配を崩壊させたことによって、次々と独立を達成していったアジア・アフリカ・アラブ諸国の参加が相次いだことに他ならないのである。

日本は、連合国に降伏してから、ちょうど今年で70年目となるが、その前に日本人として忘れてはならないのが、白人中心の世界を叩き潰した大東亜戦争の前哨戦である「日清・日露戦争」の世界史的な意義であろう。

日本は、今から70年前の戦争で自存自衛とアジア解放を実現するために、西欧列強に対して捨て身の一撃を与えたことによって、アジア諸国を次々と独立させていったわけであるが、そのアジアの独立に弾みをつけたのが、日清・日露戦争だったのである。

日清戦争はちょうど120年前に、日露戦争はちょうど110年前に起こった戦争であるが、現在の日本では、この日清・日露戦争どころか、かつて日本がアメリカと戦争をしたことも知らない大学生が増えていることは、実に嘆かわしいことである。

本書を読めば分かるように、日本は、コロンブス以来、世界が白人優位の時代だったときに、帝国主義列強に対抗するために明治維新を行い、また文明国家の一員として認められるために近代化に努めたが、その中で、朝鮮半島に触手を伸ばす世界屈指の軍事大国ロシアの脅威を跳ね除ける必要から、やむを得ず、日清・日露戦争を戦ったわけである。

だが、これらの戦争は、単に朝鮮半島をロシアから守ったという戦争ではなく、世界史を大きく転換させることに貢献した戦争だったのである。

もし、日本が日清・日露戦争に負けていたならば、あるいは日清・日露戦争がなかったならば、この白人優位の世界史の流れは変わらず、21世紀になっても相変わらず世界中の有色人種は、白人の植民地支配と人種差別の中で苦闘を広げているかもしれない。

世界のスポーツの祭典であるオリンピックに参加できる有色人種の国家は、今よりも遥かに少ないことは間違いないだろう。言うなれば、日清・日露戦争があったおかげで、世界の有色人種は、もはや白人の言いなりになり続けるという境遇から解放されたのである。それを実現させたのが日本であったと断言してよいのである。

中国や韓国などは、戦前の日本が行ったことに対して、相変わらず謝罪を求めてくるが、日本はアジアに謝罪するのではなくて、むしろ感謝を求めてもよいくらいである。

ところが、皮肉にも時間が経てば経つほど、誰の目にも日清・日露戦争の世界史的な意義が分からなくなっていくのである。

その記憶を風化せないためにあるのが本来、歴史教科書の役割であるはずなのだが、戦後に出版された、わが国の歴史教科書に書かれている近現代史には、どこを見ても、「歴史の経過」が書かれているだけで、日本の「言い分」が書かれていないのである。

アメリカにはアメリカの、中国には中国の言い分があるように日本には日本の「言い分」があるのだから、そのことを書いて子弟に教えるのが本当の歴史教育というものである。

もし、ローマの歴史家が、自分たちが滅ぼしたカルタゴの言い分だけを取り上げてローマ史を書いたら、それはローマ人ではないだろう。歴史を書くということは、そういうことだと思うのである。

日清・日露戦争と言うと、現在の日本人の生活とは直接関係がないような出来事のように思うかもしれないが、現代に生きる日本人は、ここに記されている事柄がどれも現代の世界システムに大きな影響を与えた出来事ばかりであることを知って、戦後、失われたわが国の歴史を自分たちの手に取り戻すことから始めなければならないのである。

明治に生きた日本人が日清・日露戦争で、挙国一致して発揮した勇気と努力、そして国民としての義務と責任感から、現代に生きる日本人は、大きな示唆を受けると思うのである。

目次

はじめに

第一部 西欧列強の世界支配と大日本帝国の誕生

第一章 世界支配を行った西欧列強の正体
 第一節 西欧列強の植民地支配はなぜ始まったのか
 第二節 清国の衰退はなぜ始まったのか
 第三節 アメリカの植民地獲得戦争はどのように始まったのか
 コラム@ 植民地からの独立を餌にフィリピンを手に入れたアメリカ

第二章 西欧列強の世界支配に対抗した日本
 第一節 明治維新はなぜ起こったのか
 第二節 西欧列強はどのようにアジア・アフリカ・太平洋地域を侵略したのか
 コラムA 帝国主義はなぜ生まれてきたのか

第二部 東アジア世界の国際秩序を変えた日清戦争

第三章 世界を驚嘆させた日清戦争の真実
 第一節 日清戦争はなぜ始まったのか
 第二節 日清戦争はどのように戦われたのか
 第三節 日本はなぜ東アジア最強の清国に勝てたのか
 コラムB 清国に対する日本軍の諜報活動

第四章 日清戦争のアジア史的意義とは何か
 第一節 日清戦争はアジア世界にどのような影響を与えたのか
 第二節 日清戦争は世界にどのような影響を与えたのか

第三部 世界の国際秩序を変えた日露戦争

第五章 世界を驚嘆させた日露戦争の真実
 第一節 日露戦争はなぜ始まったのか
 第二節 日露戦争はどのように戦われたのか
 第三節 日本はどのようにロシアと講和条約を結んだのか
 第四節 日本はなぜ世界屈指の軍事大国ロシアに勝てたのか
 コラムC 屈辱外交と不平等条約の解消

第六章 日露戦争の世界史的意義とは何か
 第一節 日露戦争はアジアにどのような影響を与えたのか
 第二節 日露戦争は世界にどのような影響を与えたのか
 第三節 世界は日露戦争をどのように見ているのか
 コラムD ロシア軍の捕虜を優遇した日本軍

おわりに
引用・参考文献一覧





おわりに

現代の世界は、ある意味でキリスト教徒の白人と非キリスト教徒の有色人種の国家から成り立っていると思う。これは、元々あったコロンブス以来の白人中心の世界システムから有色人種を無視できない世界システムに転換したからである。

前出のアメリカのジャーナリスト、エル・F・ブッシュが述べているように、この世界システムへの転換に大きな影響を与えたのが日本海海戦であった。

また前出のアルゼンチン海軍の観戦武官マヌエル・ドメック・ガルシア大佐は、「日本海海戦はアジアをロシアの支配から救った」と述べているが、この日本海海戦は世界史に、それ以上の影響を与えたことは言うまでもないだろう。

確かに、この日露戦争によって、ロシアは、アジアへの進出を阻止されたことから、その後、西へと向かったことで、第一次世界大戦が勃発する誘因になったとか、あるいは1918年に、世界最初の共産主義国家であるソ連が誕生したとか、世界史に負の影響を与えたことは否定できない事実であろう。

だが、その中で、日露戦争が最も世界に大きな影響を与えたのは多数の有色人種の国家が台頭するという20世紀の世界システムを現出させたことであろう。

アメリカを代表する戦略論の専門家サミュエル・ハンチントン(ハーバード大学政治学教授)は、その著書で、

『冷戦時代は政治やイデオロギーによって国家間の協力関係や敵対関係が決まり、世界の国々はおおまかに「自由世界」、共産圏、第三世界という三つのグループに分かれていた。だが、現在は、文化ないし文明という要素によって国家の行動が決定される傾向が強まり、国家は主に世界の主要な文明ごとにまとまっている。すなわち、西欧文明、イスラム文明、東方正教会文明、中華文明と、それぞれの文明ごとに国家のグループができている』

と述べているが、白人であるハンチントン教授の学説には白人対有色人種の対立構造という視点が全く欠けていることが分かる。

ハンチントン教授が言うところの文化、文明という視点だけでは現代の国際政治の変化を説明するのは難しいと思うのである。

例えば、現在のアメリカに住む黒人たちは、白人たちと同じ文明、文化を共有して生活しており、アフリカの文化、文明を基礎にして生活している者はほとんどいないはずであるが、では、なぜアメリカでは白人と黒人との間で対立が生まれるのだろうか。

それは、アメリカに人種差別という問題が根柢にあるからである。

戦後、日本において欧米人の有色人種に対する差別意識が露骨に働いたのが昨年1月18日に、駐日アメリカ大使のキャロライン・ケネディが和歌山県太地町で行われている伝統的なイルカの追い込み漁を「非人道的」という理由で、ツイッターで批判した問題であろう。

今でこそ、アメリカは捕鯨禁止の先進国を気取っているが、ペリー来航の前に日本の近海に出没したのがアメリカの捕鯨船であった。

アメリカではマッコウクジラの油をロウソクに使うために1650年代から沿岸捕鯨を開始したが、大西洋上で、マッコウクジラが絶滅すると、次に北太平洋に移動して、マッコウクジラを絶滅させるまで乱獲するのである。

次に、アメリカがマッコウクジラを求めて移動したのは中部太平洋であったが、次第に日本の海域に移動してきたのは日本列島の東方沖でクジラの漁場を発見したからである。

その後、アメリカは捕鯨を禁止するが、その理由はあくまでも乱獲が原因であって、クジラ漁が「非人道的」だからではない。

今から70年前の大東亜戦争のときに、日本の各都市に焼夷弾を雨霰のように降らし、最後には広島と長崎に原爆を投下して、無辜の市民を大量虐殺したアメリカに日本の伝統的な食文化であるイルカの追い込み漁を「非人道的」だと批判する資格があるのだろうか。

17世紀から、スペインとオランダに遅れて植民地獲得競争に乗り出したオランダ、イギリス、フランスなどは、スペインとオランダが侵略の法的根拠にした「発見優先原則」に変えて、自らの文明を基準に他国を「野蛮─未開─文明」の三つに区分けし、相手を野蛮人と見たら侵略してもよいという「先占の権原」を適用して、アジア・アフリカ・南アメリカを侵略したことは詳述したが、この根柢にあるのは有色人種に対する差別意識だったと思う。

その意識がまだ欧米人の心の奥底に残っているからこそ、彼らは日本の食文化にケチをつけるのだ。もし、われわれが「スペインの闘牛」にケチをつけたら、きっと彼らは許さないだろう。

国際政治における白人国家と有色人種国家との対立も、基本的にはこれと同じであって、文化、文明の影響は、それほど大きな原因とはなっていないと思うのである。

たとえ、現在のわが国の歴史教科書が日露戦争に対して、高い評価を与えていなかったとしても、当時のアジア・アラブ・アフリカの有色人種だけではなく、欧米列強や社会主義者でさえもが日露戦争に対して、高い評価を与えていることは紛れもない事実なのである。

われわれ日本人は、日清戦争によって、従来の東アジア世界の国際秩序体系が華夷秩序体系から近代国際法秩序体系へと大きく転換したこと、またコロンブス以来、「アジア、アフリカが完全に欧米植民地支配に飲み込まれ、欧米の圧倒的な植民地化の波が中国大陸、朝鮮半島に迫りつつあった時に、有色人種の日本が立ち上がり、初めて白色人種を敗北させ、全世界を席巻した欧米植民地支配に対し、アジアの新興国日本が初めて反攻に転じたのが日露戦争」であったこと、そして、それが後に西欧列強の植民地支配からアジアを解放する大東亜戦争へと発展し、人種平等の世界形成に大きく貢献したことを忘れてはならないのである。

われわれ日本人は、明治維新以降、日本が歩んできた歴史を、もう一度見つめ直し、15世紀から始まる西欧列強による「侵略の世界史」に敢然と立ち向かった、父祖たちの功績を自信と誇りをもって、後世に語り継いでいかなければならないと思うのである。


 

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