犬本・読書感想文 優秀賞

太郎の長旅

宮路 阿利紗 (愛知県豊田市 14才)


「捨てる人間がいれば、拾う人間になればいい。傷つける人間がいれば、傷を治す人間になればいい。たとえ動物が人間を愛してなくても、愛される人間になればいい」
 私はこの本を読んでそう思った。私にそう思わせたものは、野犬だった太郎と初江さんとのあまりに衝撃的な出会いだった。
 野良犬と言えば、ダニがいっぱいいて、そこら辺のごみをあさって食べたり、臭くて汚いというイメージがある。どんなときも自分勝手な行動をして、一見するといつも堂々としている。どれもこれもあまり良いイメージではない。それなのに、ある二人の者が野良犬のイメージを変えたのだ。その一人目が太郎である。太郎からすれば、人間はいつも堂々としていて自分勝手な生き物だというイメージが強かったのではないか。何故なら太郎から見た人間は、何も悪いことをしていない自分たち犬族を、人間の身勝手で、殺したり追いかけ回したりしているイメージしか無かったからだ。
 ところが太郎から見て、人間に対するイメージが変わる大きな出来事があった。きっかけは、太郎が人間に追い回されるといういつものパターン。その人間は太郎から見れば、心の中に固まっていた人間のイメージと変わらず、太郎の前で堂々としていたけれど、以前追い回されていたときとは明らかに違っていた。銃や武器などで追い回されたのではなく、自分に餌をくれるためだけに、自分に認めてもらうためだけに、山道まで追いかけてきていたのだ。これは、太郎にとっては生まれて初めての奇妙な経験であったことだろう。そして、ここから太郎の気持ちが動いたのだ。でもこの時点で、きっともう太郎はこの人間のことを、認めていたのかもしれない。
 そして半年以上がたち、太郎はついに人間を認めたのだ。私はここまで太郎の立場にたって、彼の気持ちを考えてみた。でもきっと、太郎の気持ちは文章で表せないくらい、複雑なものであったに違いない。この話は、初江さんが太郎と出会ったことがポイントなのではなく、太郎が初江さんという人物の心に出会ったことに重大な意味があったのだと私は思う。太郎は、一生懸命自分のことを思ってくれる初江さんの気持ちを素直に認めたのだと思う。太郎にとっては、今まで生きてきた中でこだわってきた数々のプライドを全部捨てる決断だったのだと思う。そこで、私は思った。どんな動物でも、言葉で話さなくても、心で通じ合えると…。
 私はこの本を読んで、心と心のふれ合いは人間同士だけの問題ではないということを改めて実感した。人間は、どんなことができても、どんなに食べるものが作れても、思いやる気持ちや助け合う気持ちは、人間だけでは作れないことを教えてもらった。最後に「私は犬だけじゃなく、人々や生き物と生きていく上で、一番大切なものを見つけていきたい」と思った。

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