産経新聞 2002年9月16日

福島・只見で「森の里親」制度

たもかく・吉津耕一氏が森の里親募集

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 山村で有効利用されていない山林や原野を、都会の人たちに開墾してもらい、自分の畑で果樹や野菜作りを楽しんでもらうユニークな「森の里親制度」が、福島県只見町で始まった。食の安全性について関心が高まるなか、安心できる食物を自分の手で作り、併せて守り手の足りない里山の森を荒廃から守ろうという“一石二鳥”の試みだ。(栫井千春)

■原野を開墾 収穫の喜び味わって…

「森の里親」制度を始めたのは只見町にある、たもかく株式会社。只見木材加工協同組合を母体とする同社は、これまでにも、所有する里山で山菜やキノコ、クリの実などを採ることができる「入会権」を提供する代わりに三百坪(約991平方メートル)の土地を購入してもらう「山林オーナー制度」や、只見町の民宿に年間1回泊まることのできる「グリーンパスポート」(5年間有効)など、都会の人たちと山村を結びつけるアイデアを次々に打ち出してきた。
 開墾というと、都会の農業未経験者には大変そうだが、代表取締役の吉津耕一さん(48)は「荒れ地が自分の手で作物を生み出す畑に変わっていく充実感は体験しなければわからない。貸し農園では味わうことができない、作物を収穫する喜び以上のものがきっと味わえるはずです」と話す。
 森の里親制度では、たもかくが所有する山林に72メートルのひもと4本のくいで自由に四角形の土地を設定、開墾して野菜、ソバ、大豆などを作ったり、キウイやリンゴ、ナシなどの果樹を植えることができる。賃貸料は一年契約の場合で一口当たり2万1千円から(ほかに区画設定費8400円)。忙しくて現地に行けない人のために、地元農家に作業を委託する、委託タイプも用意されている。開墾や作物の作り方については、地元のベテランに指導(有料)を仰ぐこともでき、初心者をフォローする態勢を整えている。

■廃校利用の宿泊施設も
  農地法の枠外で土地購入OK

 ユニークなのは、開墾して手応えを感じれば、その土地を購入することも可能なこと。
「農業以外の人が農地を取得することは農地法で厳しく制限されています。農地法は生産のための農業を前提にしていますから。これが都会では仕事をリタイヤして、地方で楽しみと自給を兼ねた農業を始めようと考えている人たちにとって大きなネックになっているんです。農地ではない山林や原野なら、農地法の制限を受けずにすむ。森の里親制度をきっかけに、こういう人たちが農業を楽しんでできるようになれば」と吉津さん。
 只見町には、たもかくが分譲しただけですでに百十棟ほどのセカンドハウスがあるが、使っているのはほとんどが首都圏などから通う都会の人たち。週休2日制の浸透など余暇時間の拡大と道路網が整ってきたこともあり、滞在する回数や日数も増えているという。魅力のある制度を提供できれば、荒れてしまった森の守り手として、都会からたくさんの人たちがやってきてくれるはず、と吉津さんは考えている。
「十月の後半から紅葉のシーズンを迎え、クリやトチの実、キノコなどが採れる、いいい季節はこれから。設定した区画ではテントを張ることもできます。近くには廃校になった分校の校舎を利用した町営の宿泊施設も。ぜひ来ていただいて、只見のありのままの自然にふれてほしい」と吉津さんはは話している。
たもかくホームページ

 


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