読売新聞2003年7月16日

12歳と向きあう

子どもが愚痴言える家庭に
無駄な話の積み重ね大切

中学一年生の男子生徒(12)が、4歳児の命を奪ったとして補導された長崎男児誘拐殺人事件は、同世代の子どもを持つ親たちに衝撃を与えた。「今のまま子どもと接していて良いのだろうか」「12歳が被害者ではなく、加害者にもなりうると思うと複雑名気持ちだ」――。家庭で広がる不安や疑問について、子どもの行動や心理に詳しい専門家の意見を聞いた。


富田冨士也さん(48)子ども家庭教育フォーラム代表

――中学生や高校生へのカウンセリングを通じ、最近感じていることは。

 コミュニケーションする能力が乏しい若者が増えている。彼らは、人とのつながりを求めているのに、どう接していいかわからず、孤独感を抱えている。ふだんは自分の殻に閉じこもって自己防衛しているが、人とのかかわりで自分が拒絶されると、大きなショックを受ける。
「たとえケンカしても、後で関係を修復できる」という発想が持てず、自分の思い通りにならない相手とわかると、すぐカッとして、別人格のように豹変することがある。今回の事件でも男児を裸にして嫌がられたため、極端な行動に走ったのではないか。

――原因はなんだろう。

 家庭での親子関係に問題があると思う。高度経済成長を通じ、合理的で効率的な世の中になったが、人と人とのかかわりは、本来、非合理的でわずらわしいもの。効率的に物事を進める社会の感覚が家庭内にも浸透し、親子の間で無駄な話、くだらない話がしにくくなっているのでは。
 ただ親だけに責任を負わせられない面もある。昔は「向こう三軒両隣」の近隣関係の中で、放っておいても子どもたちは人付き合いを学ぶことができた。現在は家庭に子育ての責任が集中しすぎているのではないか。

――親子関係をよくするには、どうしたらよいか。

思春期を迎えた子どもが無口になった時、「難しい年頃だから」と片づけてしまうのは安易すぎる。
 中学二年生のカウンセリングをした時、「親と口を聞かないのは、話をしたくなるような話題がないから」と言われたことがある。親の関心は「勉強しているか」「成績はどうか」ということに集中しがちだが、子どもにとって一番話したくないこと。
 親は子どもの心配をしているふりをして、子どもを追いつめていることがある。大切なのは、無駄な話、くだらない話を積み重ねて、子どもが弱音や愚痴をはける親子関係にしておくこと。子どもが、親とのかかわりをあきらめるような関係ではいけない。
「ウソをついたのは私が悪いけど、ウソをつかせたのはお父さん」と言った中学三年生の女子もいた。そういう本音が出てくると、関係をよくする一歩になる。

――子どもがうまく人付き合いをしているか知るには。

 子どもが弱音や愚痴をはけるのは、素直な心で接しているから。そういう状態であれば心配はない。たとえ親とは口をきかなくても、友達からよく電話がかかってきたり、友達と仲良くしている様子がうかがえたら、人間関係を築く能力があると思う。
 しかし、子どもの友人関係が見えず、自己中心的な言動が目立つようなら注意が必要だ。その時は、もう一度親子関係を見つめ直してほしい。

(聞き手・川辺隆司)



とみた・ふじや 千葉県松戸市で不登校や引きこもりの子どもや成人、その親へのカウンセリングを行っている。フリースクール運営などを経て、1998年、「子ども家庭教育フォーラム」を設立。千葉明徳単位大学特別講師(臨床心理学)。



読売新聞2003年7月16日

関連書籍

 


ハート出版