朝日新聞2006年5月8日

災害救助犬 成長の物語

警察犬「失格」 訓練・活躍… 一生 児童書に

 十日町市のペット理容師、西方真さん(35)との出会いをきっかけに災害救助犬となり、数多くの捜索に活躍した「トマト」の一生が本になった。訓練、活躍、そして悲しい別れ――。固いきずなで結ばれた8年半を振り返り、オーストラリア在住の作家池田まき子さんが140ページの児童書にまとめた。

 書名は「出動! 災害救助犬 トマト」(ハート出版)。十日町市の民間ボランティア「災害救助犬十日町」の隊長でもある西方さんと、メスのジャーマンシェパード、トマトの物語だ。
 トマトは、中越地震直後にストレスで死んだ。9歳だった。そのことをインターネットで知った池田さんが昨年秋、西方さんを訪ねて本にした。
 西方さんとトマトの出会いは96年5月にさかのぼる。西方さんの経営するペットショップにトマトが持ち込まれた。
 埼玉県で生まれ、警察犬になることを期待されながら、音におびえる性格が障害となったトマト。ところが、西方さんの指導で、においをかぎ分けたり地中のものを探し当てたりといった訓練を積み、災害救助犬としての才能を開花させる。
 03年5月には、タケノコ採りにでかけて遭難したお年寄りを20分で見つけるなど、この年だけで20回も出動を繰り返した。
 しかし、その1年後。突然の別れが待っていた。  04年10月23日に起きた中越地震の直後、西方さんは行き場をなくしたペットの保護センターを店の隣に開設した。テント7梁で延べ1300頭の犬と猫を預かり、世話に追われた。
 その反動で、毎朝毎晩の訓練を通してふれあっていたトマトとは、次第に疎遠に。ストレスがたまったトマトは11月21日朝、ケージの中で静かに横たわり、息を引き取った。
 本は、臆病だったトマトが名犬に育つまでの西方さんの苦労も描いた。「人間と動物がいっしょに暮らすことの意味などについて、考えるきっかけになればという願いも込めました」。池田さんは同書のあとがきに、こう記した。
 西方さんは「トマトは地震で苦しむ人たちのために働き、災害救助犬として一生を終えた。この本が読まれ、もっと多くの人に災害救助犬の活動を知ってもらえるとうれしい」と話す。
 十日町市と津南町の小学校に、本の寄贈を決めている西方さん。いまは、埼玉県警察犬訓練所から昨年10月に引き取った、トマトそっくりの子犬を「2代目」にするための訓練に没頭している。


朝日新聞2006年5月8日

 


ハート出版