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はじめてのひきこもり外来

専門医が示す回復への10のステップ


社会問題化する大人のひきこもり
ひきこもり100万人時代。

「全国引きこもり親の会」顧問の精神科医が
豊富な臨床例から治療の道筋をわかりやすくアドバイス

本人及び家族・友人待望の書

人生はいつからでも「スタート」
治る手だてはある。希望はある。


中垣内正和 著 2008.04.08発行 ISBN9784892955846 C0036

 四六並製・240頁・定価 1650円(本体 1500円)

 

はじめに

はじめてのひきこもり外来
 ひきこもりという言葉がひろく知られるようになったのは、2000年の「柏崎監禁事件」や「佐賀バスジャック事件」からです。登場の仕方があまりに不幸な形であったために、さまざまな偏見を招くことになりました。
 しかし、同時に「ひきこもり」が社会的な注目を浴び、ひきこもりについて多くの人が知ることになりました。
「自己責任で社会参加する」と思われた不登校の2割が、じつは自力で抜け出せないままになっていることや、ひきこもりの数が数十万人以上におよぶ可能性が明らかになり、社会は騒然としたのです。
 2006年の親の会(全国引きこもりKHJ親の会)の統計調査では、ひきこもりの平均年齢は30歳と一段と高くなり、平均ひきこもり期間も10年におよぶことが指摘されました。また、小中学校の不登校、高校大学の中退、高校大学卒業後の無業のほかに、いったん就職した後のひきこもりまで多様であることがわかりました。3年以内の受診が多いものの、20年以上を経た小中学不登校由来のケースまで存在する実態もあきらかになりました。さらに、教育における新競争主義のなかで、不登校・ひきこもりが、今後減少する可能性が少ないという見通しまで示されました。
 ひきこもりを説明するモデルとしては、対人恐怖モデル、社会不安障害モデル、動態論モデル、発達障害モデル、依存症モデルなどがあります。
 対人恐怖モデルは、SSRI(抗うつ薬)の発売以前の理論となりました。社会不安障害モデルは社会参加訓練を理論のなかに含むことができないでいます。発達障害モデルには、生物学的要因に帰してしまう欠点があります。
 それに対して、斉藤学は、第14回日本嗜癖行動学会(長岡、2003)において、「ひきこもり依存症」という名を与えて、ひきこもりの「依存症モデル」を提示しました。著者もその立場を支持していますが、その理由は、「ひきこもり外来」は依存症モデルによって実践されており、その有効性が確認されているからです。ひきこもりの社会参加プログラムは、アルコール依存症などの社会復帰プログラム(ARP)をモデルにして、当事者の社会参加を促進しています。(本著の「10のステップ」がそうです)
 さて、依存症には、アルコール、薬物、食べ物などの物質消費にのめり込む「物質依存」、夫婦関係や親子関係などの共依存に苦しむ「関係依存」、買い物やギャンブル、ゲームなど行動過程にのめり込む「過程依存」の3種類があります。
 ひきこもり依存症は、ひきこもり行為にしがみつく点で「過程依存」であり、こじれた親子関係にしがみつく点で「関係依存」といえますが、快感を報酬として得るというより不快を避ける点に特徴があります。
 依存症と定義することによって、その状態からの脱出が好ましいことと、再度のひきこもりを防止することという2つの対応方向がはっきりしてきます。
 ひきこもりを「権利」「正当な生き方」として強調する立場とは、いささか趣を異にします。状態から抜け出ることにメリットがない場合には、ひきこもり依存症という必要はないのです。
 問題解決が必要か否かは、長期のひきこもりから脱した当事者たちの言葉が教えてくれます。
「ひきこもり時代と現在とで、どちらが良いか」という問いに対して、全員が、
「ひきこもり時代よりも、つらいことも良いこともある現在のほうが良い」
「二度と元に戻りたくない」
 と答えているのです。
「社会の中で」「人生を楽しみ」「社会の一員として存在し」「成長することもある」生活が阻害されて、「人生の可能性が閉ざされてしまう」からこそ、二度と戻りたくないのです。
「家から出る切っかけがなかった」(ひきこもり13年)、「どうにもならなかった」(同20年)は彼らの言葉です。
 これは、親との膠着した関係のなかで、なす術もないままに、「出たい、しかし出られない」という相反した気持ちにとらわれてきたことを示しています。少なくとも、社会生活が阻害され、可能性が閉ざされた状態を「ひきこもり」と呼んで、治療とサポートの対象にすることに誤りはないといえます。
 ひきこもり外来は、当事者の7割近くが親と訪れることからわかるように、基本的に、親たちの取り組みから開始して、当事者の回復につなげる方法です。しかし、この問題は、現代日本の社会や親たちにとって最も困難な課題として、目を背けてしまいたくなるようなわかりにくさや不可解さをともなっています。
 すなわち、ひきこもり問題の困難さは、ひきこもりから脱する方法と方向があまりに漠然としていて、見えてこない点にあるのです。
「ひきこりからの回復――親の10ステップ」と「ひきこもりからの回復――若者の10ステップ」では、問題解決の方法と方向性が、具体的に目に見える形で示されています。また、問題に取り組む際の、心理的な重圧を軽くしてくれます。何よりも、ひきこもり問題が解決可能であるという、現実的な「希望」を抱かせてくれます。
 ひきこもりからの回復を進めるためには、親や社会の側にも「自らが回復・成長・成熟する」姿勢は欠かせません。
 親や社会の側が、戦後経済成長の過程で、「ひとがひととして成長・成熟していく大切さや方法を伝えること」から目を背けたことが、ひきこもり問題発生の一因として、あげられるからです。
 1章の「ひきこりからの回復――親の10ステップ」は、ひきこもり当事者を家から出していくためのマニュアル的な技術論にとどまらず、大人を含めた社会の構成員が、市民社会、共同社会の一員として、「生き生きと生きる」ための方向性を与えてくれます。
 2章の「引きこもりからの回復――若者の10ステップ」は、ひきこもり当事者が一歩を歩み出すための方法や動機づけの仕方に加えて、新しい時代の新しい生き方を示してくれます。

 

目 次
はじめに
【ステップ方式とは】問題解決のための方法と方向性を示す有効な治療方法

第1章 ひきこもりからの回復――親の10ステップ



【親のステップ1】今までのやり方は無力だった
 1 今までのやり方が無力であると気づいた
 2 価値観が共通することに気づいた
 3 被害者意識が共通することに気づいた
 4 親のがんばりすぎに気づいた
【親のステップ2】深刻化した要因に気づく
 1 事態が深刻化するもう一つの要因に気づいた
 2 子ども第一主義、「民主」の過剰、成人後の同居主義に気づいた
 3 神経症が進むことに気づいた
 4 待機主義と自己責任論の誤りを知った
【親のステップ3】母親の過剰と父性の不在
 1 父性の不在と母性の過剰に気づいた
 2 母子密着に気づいた
 3 父性の敗北を認めた
 4 共依存の問題性に気づいた
【親のステップ4】第三者の存在を活用
 1 医療機関での治療
 2 NPO
 3 親の会
 4 保健所、精神保健福祉センターがある
 5 居場所、フリースペース、自助グループ
 6 訪問支援員、訪問サポート士
【親のステップ5】夫婦揃っての参加に意義を見つける
 1 家族の閉鎖性・密室性をさけた
 2 夫婦で取り組むことにした
 3 癒しと刺激と勇気を得た
 4 仲間の必要性を理解した
 5 タイミングを得ることにした
【親のステップ6】親の価値観は通用しない
 1 価値観を押し付けたことに気づいた
 2 若者の全体状況を理解した
 3 若者に必要な時間を与えた
【親のステップ7】親が人生を楽しむことが大切
 1 生活を楽しむことにした
 2 年齢主義から解放された
 3 発想を転換することができた
 4 生活を楽しむためのアイテム
【親のステップ8】希望を抱き一喜一憂しない
 1 冷静に、根気強く、タイミングを待つ
 2 困難ケースに支援
 3 ひきこもりの解決に希望を抱き、一喜一憂しないことにした
【親のステップ9】変化することの大切さ
 1 互いの距離を変える
 2 リバウンドを防ぐための取り組み/
【親のステップ10】経験を伝える大切さを知る/
 1 若者が孤立する理由がわかった/
 2 回復した経験を、いまだ苦しむ親や当事者に伝えた/
 3 市民社会の一員と実感/


第2章 ひきこもりからの回復――若者の10ステップ



【若者のステップ1】ひきこもっていては、どうにもならなかった
 1 はじめは軽い気持ちでひきこもった
 2 ひきこもりは渦のように深くなり、出るに出られなくなった
 3 自分が悪いと思って罪悪感を抱き、親が悪いと思って被害者意識を抱いた
 4 ときの経過とともに、さらに出られなくなった
 5 長引くにつれて、心身の不調は強まった
【若者のステップ2】重圧から解放された
 1 親への依存に気づいた
 2 ひきこもる意義について考えた
 3 親や周囲の取り組みに気づいた
 4 ひきこもりから参加できる居場所などを知った
【若者のステップ3】居場所、フリースペースに参加
 1 勇気を出して居場所に参加
 2 年齢のへだてなく、おしゃべりなどの交流
 3 みなが同じ悩みを抱えている
 4 居場所はくつろげる空間
 5 今までは必要な時間だった
 6 良いこともつらいこともある今が良いと思える
【若者のステップ4】医療やNPOを利用する
 1 ひきこもりの間は身体の不調にも心の不安定にも耐えた
 2 虫歯、皮膚病、痔、腹痛など身体の不調は受診
 3 さまざまな心の不安定は受診
 4 医療、カウンセリング、NPOの利用が回復を進める
 5 リバウンドを少なくするコツ
【若者のステップ5】もはや孤独ではない
 1 ひきこもり中はコミュニケーションを願った
 2 同じ悩みを抱える仲間の存在に気づいた
 3 ウォーキングやスポーツを楽しみ、体を動かした
 4 経験不足によるマイナス思考や完全主義に取り組んだ
 6 もはや孤独でないことに気づいた
【若者のステップ6】新しい学び方と新しい働き方を学んだ
 1 資格・免許・講座・進学・セミナー・プログラムに取り組んだ
 2 肩書きや学歴に意味がないことに気づいた
 3 ありのままの自分らしさを学んだ
【若者のステップ7】異性とのおしゃべりやデートを楽しむ
 1 ひきこもり中には異性との交際・交流ができなかった
 2 異性には勇気を出して話しかけることにした
 3 ふられた痛みはなげく必要がないことを知る
 4 人類の歴史は、最初に「男と女ありき」
【若者のステップ8】体を動かすボランティアやバイトを開始
 1 働くことについて、すでに働いている仲間やリーダー、スタッフに聞いた
 2 バイトやボランティアを開始
 3 無理なくできる仕事は何か考える
【若者のステップ9】社会参加し、生きる実感を得る
 1 試行錯誤は当然、うまくいかない場合には教訓を得た
 2 人生はいつからでもスタート
 3 医療的視点で、「働けるかどうか」を判断することが大切
【若者のステップ10】自分の経験を苦しみ悩むひとに伝えた
 1 ひきこもりはコミュニティの大切な子である
 2 体験を伝えることの喜びを知った
 3 ひきこもりは貴重な体験だと知った

あとがきに代えて

〈巻末補足1〉 大人のひきこもり――本著データの説明
〈巻末補足2〉 ひきこもり問題へ対応――「全国引きこもりKHJ親の会」拡大幹事会(広島・ 2008)

 

著者紹介

 中垣内 正和(なかがいと まさかず)

精神科医・心療内科医・医学博士
専門:・精神科 ・心療内科一般
   ・アディクション(ひきこもり、摂食障害、アルコール依存症)
新潟大学医学部卒
前新潟県立精神医療センター 診療部長
現医療法人佐潟(さがた)荘 副院長
日本嗜癖(しへき)行動学会 理事
新潟医療福祉大学 講師(非)
・全国引きこもりKHJ親の会 顧問
・全国薬物依存症者家族連合会 顧問
・にいがた摂食障害親の会 顧問

 

読者の声

 

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