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「いい家族」を願うほど子どもがダメになる理由
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■ ハート出版の教育書 ■ 「いい家族」を願うほど 誰も気づかなかった成果主義家族の落とし穴
無差別殺人を引き起こすパーソナリティー障害の遠因
富田富士也 著 2008.11.20発行 ISBN 9784892955945 C0037 A5並製・288頁・定価 2200円(本体 2000円) |
まえがき |
こんな質問をすれば、おそらく十人中九人は手を挙げると思います。この本を手に取っているあなたも、やはり人間関係や子育てに悩んでいる一人ではないですか? 人間関係や子育ては上手に循環しているときは単純ですが、すこしすれ違いが起こると、複雑なものです。複雑だから、そういった関係を数値や損得、あるいは勝ち負けでとらえることはむずかしいのです。人間関係は突き詰めると「対人関係」です。自分という存在があって、周囲に自分以外の人がいる。自分が生身なら周囲の人も生身の存在です。そういう生身の人間同士が「対」の関係をつくり、広がっていきます。しかし人と人との関係性を評価や成果、勝ち負けで判断していくと、関係性はぎくしゃくしたものになります。 私は20年以上「引きこもり」と呼ばれる若者たちや、その家族と関わり続けてきました。極端な言い方をすると、コミュニケーション不全から引きこもる彼らは、家族や社会から、「成果の出ない」人間と見られてきました。他者との関係性や共感性を喪失した若者は、現実逃避、あるいは空想の世界に身を置くことで、心に防衛規制を働かせ、独りよがりな世界を築き、現実と向き合う助けが得られないと、その長期化は孤独で生きることへのむなしさとエゴを肥大化させてしまいがちす。そうした肥大化はやがて成果を出せない自分自身、世間から、あるいは親から評価されない自分自身への心の苛立ちを生み、ここ数年、私の相談室を訪れる人のなかに「パーソナリティ(人格)障害」を呼ばれるような家族や社会からの見捨てられ感と置き去り感をかかえる若者が目立つようになってきました。 また、親密な関係にある、親殺し、子殺し、あるいは無差別(通り魔)殺人事件が起こると「解離性同一障害(多重人格)」という耳慣れない言葉も聞くようになりました。 「いろいろな人格の自分が突然出てきて、自分が何者かわからず怖い」と相談室で嘆く若者も多く見受けられます。意識、記憶、同一性といった機能が統合されていない“解離症状”に苦悩しているのです。思考と感情と行動が不一致を起こし、空想(夢/バーチャル世界)と現実の見分けがつかなく、自分が自分でない感じになっているのです。人を殺しても、何らかの方法でリセットすれば生き返る、と信じている若者もいます。自己中心的でTPOをわきまえない衝動的行動を起こし、自分の心をもてあましています。 そして、その苦しみに置かれている若者だけでなく、学校クレーマーと呼ばれる保護者、あるいは社会的には「立派な社会人」といわれている人までです。周囲の人はまるで、はれものにさわるような接し方になっています。どうしてこうなってしまったのでしょうか。寄り添い方も、カウンセリングや精神医療だけでは先が見えてこない状況にありました。 私は「共感の欠如」だと思います。相手を殴って痛みを与えても、そのことにまったく気がつかないどころか、殴った自分の手が痛いのは、殴らせた相手が悪いと、逆に責め立てることもあります。無差別の殺傷事件、家族への凶行は、決して他人事ではなく、ごくごく身近に潜む、他者への共感性を失った現代社会の影のように思えます。私には、人と人との関係性を軽視した成果主義が根っ子にあるように思えるのです。 本書では、これまで20年以上にわたって相談室で関わり続けた若者たちと家族の葛藤を踏まえながら、心をもてあましている若者がなぜ生まれたのかを探りつつ、 効率・成果主義社会の犠牲になってきた子どもたちと家族の関係を紹介し、親として、寄り添う大人としてどう対応したらいいのかを提案したいと思います。 過去、現在、未来の人とのつながりのなかで、人間関係を形成できずにコミュニケーション不全を起こし、周囲の人々と摩擦を起こしてしまう子どもや若者たち。その原因は、効率のよい子育てを目指してきた親や社会にもあるのではないかと思います。 最後までお付き合いください。 |
目 次 |
まえがき 〈本書を読まれる前に――〉 1章 心にナイフを潜ませる家族関係はなぜ生まれるのか 子育ての成果は数値でわかる? パーソナリティ(人格)障害って何? 行きすぎた成果主義が品格を失わせる? 品格は幼児期に作られる? 効率と消費優先社会の副産物が、パーソナリティ障害? 「やさしさ」を理解できない若者 親を困らせる最後のチャンス エリートのつまずき 2章 気づいていますか?「いい家族」の危険性 バリバリお父さんの「家庭も結果がすべて」 家族にとっての「正義」ってなぁに 家長が「上司」として振る舞う家庭 逃げられない親子関係だからこそ、爆発してしまう 劣っていることは、悪いことなのですか? 努力は報われてこその努力なのですか? 「無駄話」も「成果」が必要なのですか? 3章 成果主義家族の裏側にある心 【39の相談と成果主義から抜け出すポイント】 1 決めつけが関係の希薄化を呼び込んだ母親 2 息子の自立を「働くこと」に求めた父親 3 友だちの数に子どもの成長をみてしまう母親 4 生きていることの意味を成果で問われた若者 5 自分の“正義”にこだわった私 6 立場を明らかにしてそれ以外の会話を拒む女性 7 権威とかお墨付きで関わる手間を省く女子大生 8 否定が怖くて独りよがりな世界に固執する女性 9 代理を立てて向き合わない母親 10 「先生」と呼ばれているうちに謙虚さを忘れていた校長 11 息子夫婦のことまで口出ししたくなる母親 12 抱え込むことで夫との分業を割り切ろうとした妻 13 支配的な恋愛関係しか想像できない20代の男性 14 意欲のない人との関わりを拒む母親 15 はっきりしない息子に苛立つ高齢の母親 16 子育ての“逸失利益”を請求する息子に、 支払いで応えてしまう夫婦 17 悪いと簡単に“ざんげ”する小三の息子 18 等身大の関係に自信がなく「作り笑い」に疲れるお母さん 19 “男らしさ”の結果が出せないと苦しむ高二の男の子 20 “想定外”の話は、聞いているようなポーズでいる少女 21 “晴れ姿”の価値観から抜け出せない父親 22 わからないことがあってはいけないと、思い続けてきた男性 23 つじつまが合わない、と苛立つ母親 24 サバイバルナイフを持ち出した息子に対応する両親 25 充実していることを自己肯定感と勘違いしてきた女性 26 失敗しないことばかり意識して、寂しさを募らせる女性 27 白黒で判断をあせった女性教員 28 納得いく答えを求めすぎた実業家の母親 29 ケンカも仲直りの経験もない母親 30 授けるだけの子育てに、子どものつらさを感じた母親 31 感想が意見になり、批判に変わっていった父親 32 評価を下されない家庭の喜びに気づいていった父親 33 効率よりも大切なことを教えてくれた小二の男の子 34 なんでも正直に言うことが正しい、と突っ走った母親 35 ふれたくない不安を、心に押し込んできた母子 36 子育てをマニュアルにして、落ち着かない母親 37 飯でも食うか、の融通表現に仲直りの気持ちを伝えた父親 38 ベタベタした親子関係を否定して子育てしてきた母親 39 せっかち過ぎて独走した父親 エピローグ/崩れるエリート家族の「絆」 |
著者紹介 |
■ 富田富士也(とみた ふじや)■ 1954年、静岡県御前崎市出身。教育・心理カウンセラーとしてコミュニケーション不全に悩む青少年への相談活動を通じ、絡み合いの大切さを伝えている。「引きこもり」つづける子どもや若者、その親や家族の存在にいち早く光をあて、「治療的」でないカウンセリングの学びの場を全国的に広めている。総合労働研究所所員、千葉明徳短大幼児教育科客員教授、千葉大学教育学部非常勤講師等を経て現職となる。
■主な著書 |
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