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■　ハート出版の児童書　■

チビちゃんの桜

子ねこが女の子に残してくれた“たいせつな時間”

１本のサクラの木といのちのお話

第８回ほたる賞受賞作品

平成17年度おすすめする100さつの本（尼崎市小学校図書館教育研究会）

小学校低学年以上向き

山崎香織　作・高橋貞二　画　　2003.07.17　発行　　

ISBN 4-89295-294-X C8093　Ａ５上製・64頁・定価 1100円（本体 1000円）

　村はずれの一本の桜の木は、今が満開。今日は、みんなでお花見に出かけます。――というところからこの物語が始まるのですが、間もなく物語は、３びきの飼いネコの話に変わります。
　ネコの話は、ゆったりとしたテンポで語られます。まるで、室内楽を聴いている時のような平和でのどかな時間が流れます。終わり近くなって、桜の木はようやく戻ってきます。しかし、その時は、もうただの桜には見えません。のどかなネコの話の底に潜んでいた深い悲しみが、桜の木に妖しく照り返してくるからです。

　物語の構成が見事です。不思議な感動に包まれ、胸がいっぱいになります。清々しい余韻を残す秀作です。

小沢昭巳

　昭和四十年代のいなかの暮らしは、今とくらべると、ないものばかりでした。便利な電化製品はまだ数えるほどで、冷蔵庫も当初はありませんでした。犬や猫が病気になってもみてくれる獣医さんがいませんでした。それでも、美しい自然と、家族と飼い猫たち、そして地域の親切な人たちに囲まれた質素な暮らしがあり、それは思い出となって今でも私の心のなかで輝く宝石のようにいつまでも色あせることはありません。
　そんな宝石の中でも、猫たちが私に与えてくれたものの大きさははかりしれません。猫たちはそれぞれ個性的で、楽しく、力づよく、そして精一杯に生きる姿を見せてくれました。つねに身近にいた猫たちから、命の不思議さや生きることの尊さ、動物と人間は理解し合えるのだということを知りました。人間だけが心や感情を持った特別な存在ではなく、犬や猫たちと同じく限りある命の生き物であることを、猫たちの「生」と「死」から実感しました。
　今はペットブームといわれています。動物とふれあうことはいいことです。けれど一方で、たくさんの犬や猫たちが捨てられ、強制的に命を奪われている事実に胸が痛みます。
　私だけのものだったチビちゃんとの思い出がこうして本になることで、多くの子どもたちに、動物と共に生きる幸せや、命の大切さを考えてもらうきっかけになればと思います。

山崎香織

第１回ほたる賞受賞作　翔べ！心のホタル

第２回ほたる賞受賞作　あの人に伝えたいこと

第３回ほたる賞受賞作　私のいじめが消えた日

第４回ほたる賞受賞作　こうぼ　とべないホタル

第５回ほたる賞受賞作　ゴムの手の転校生

第６回ほたる賞受賞作　ぼくはゆうれい

第７回ほたる賞受賞作　星をまく人

第８回ほたる賞受賞作　チビちゃんの桜

第９回ほたる賞受賞作　おかあさんのパジャマ

第10回ほたる賞受賞作　いのちはどこに入ってるの？

第11回ほたる賞受賞作　メル友からのメッセージ

第12回ほたる賞受賞作　りそうのくに

第13回ほたる賞受賞作　となりのトンコやん

第１回ほたる賞応募作　いじめを考える作文集

■　山崎香織（やまざきかおり）　■

1958年、茨城県生まれ。茨城大学卒業。小学校教員、結婚して退職。日本児童文学者協会員。1986年、カネボウミセス童話大賞優秀賞。1987年、けやき書房幼低学年童話賞。作品に「やみの世界のほね太郎」（文溪堂）、「きりのなかの幽霊」（偕成社）など。水戸市在住。

■　画家紹介・高橋貞二（たかはしていじ）　■

1954年、山形県新庄市出身。武蔵野美術大学で油絵、彫塑を学ぶ。卒業後、一貫して童画を描き続けている。日本児童出版美術家連盟会員。2001年、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展入選。作品に「こんにちは！ 盲導犬ベルナ」ほか多数。現住所・埼玉県所沢市。

2003.08.10