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子どもたちの暗号
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■ ハート出版の教育書 ■ 子どもたちの暗号 僕のつぶやきに気づいてください 富田富士也 著 1995.01.15 発行 ISBN 4-89295-048-3 C0037 四六上製・112頁・定価 1068円(本体 971円) |
まえがき |
登校・就職拒否から心に鍵をかけ引きこもる子どもたちやその家族と向かい合って、十年以上の月日が流れました。 引きこもる子どもたちは、寡黙になっています。長い間、自分自身の心のなかに不安を抱え、悩みを一人で背負ってきたからでしょうか、私たちの話しかけにも、沈黙でしか応えてくれません。でもそこに確かにいてくれるのです。 彼らも好き好んで寡黙になっているわけではないのです。何かを伝えたい、自分の今の気持ちをわかってほしい、と心のなかでは必死に叫んでいるのです。 この本は、呻吟する彼らのそうした心のうめき声をまとめたものです。 子どもたちとの出会いのなかで、私のノートは彼らのうめき声でいっぱいになりました。 苦しげに、絞り出すような声でポツリとこぼした言葉。 涙声で、自分の過去を語ってくれた少女。 ツッパリの格好をしていても、母親や父親に甘えたいと、斜に構えテレ臭そうに語る少年。 大人のように、理路整然と語るわけではありません。ときには、自分の意志とはまったく反対のことをいうこともあります。意味不明の叫びであることもあります。 でも、それは偽らざる彼らの心のつぶやきなのです。 「暗号集」として、いま改めてノートのなかにつづられた彼らの言葉のいくつかを拾い出しました。それはときに辛く、また嬉しくなることでもありました。言葉ひとつひとつに子どもたちの顔が浮かんできたからです。 「あのとき、本当に誰にも理解されずに君は泣いていたんだね」 「相談室で、君はテーブルを思いきり蹴飛ばしたね。僕の膝に当たったら、ちょっと戸惑った表情をしたね。ツッパっていても、君は本当は優しかった」 「相談が終わって、面接代を払うとき『またお金使わせてしまったね』と、ボソリと母親に声をかけていた君。今は元気で働いているかい」 子どもたちの心の優しさに出会うとき、私は目頭が熱くなりました。上手に自分の心を打ち明けられず、純粋で素直であるがゆえに、かえって自分自身を苦しめてしまう子どもたち。 子どもは、大人ではないのです。この当たり前のことを、私たち大人は忘れてしまいます。子どもたちの心をわかってあげられるのは、わかってほしい≠ニ切実に求める子どもたちが一番辛く当たってしまう、あなたなのです。 子どもたちは「引きこもる」ことで自分の思いを理解してくれることを願っているのです。 子どもたちは、「暗号」という形で、心のメッセージを、いま一番わかってほしいあなたへ送っています。どうか、わかってあげてください。 とくに私は、父親の関わりに子どもとの新たな出会いを期待しています。私たちカウンセラーの百の言葉よりも、父親の一言に優るものはありません。 『父親が僕に関心を向けてくれたのは三回だけだった。どこの高校へ行きたいんだ 偏差値は大丈夫か 金はいくらかかるんだ それだけだった』 と、つぶやいた子どもがいました。そして、そのあと、『僕の好きな食べ物も友だちの名前も、尊敬している人も何も知らなかった』 と、ポツリと言いました。自分(僕)のことを知ってほしい……子どもはそう思っているのです。 子どもたちの暗号を、本当に理解してあげられるのは、お母さん、お父さん、兄弟、そして先生といった身近な皆さんだと、私は思います。 |
著者紹介 |
■ 富田富士也(とみた ふじや)■ 1954年、静岡県御前崎市出身。教育・心理カウンセラーとしてコミュニケーション不全に悩む青少年への相談活動を通じ、絡み合いの大切さを伝えている。「引きこもり」つづける子どもや若者、その親や家族の存在にいち早く光をあて、「治療的」でないカウンセリングの学びの場を全国的に広めている。総合労働研究所所員、千葉明徳短大幼児教育科客員教授、千葉大学教育学部非常勤講師等を経て現職となる。
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