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子どもの悩みに寄り添うカウンセリング
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■ ハート出版の教育書 ■ 新版 子どもの悩みに寄り添うカウンセリング 教師・家族の「聴く力」が子どもを育てる 子ども問題に向き合う第一人者の書き下ろし 富田富士也 著 初版 1995.08.10 新版 2004.06.18発行 ISBN 4-89295-461-6 C0037 四六並製・256頁・定価 1650円(本体 1500円) |
まえがき |
■「聴聞マインド」で「心の居場所」づくりに心がけてみませんか 大人であれ子どもであれ、悩みはその人の生命から沸き起こってきたものです。ですから気安く、「たいしたことはない」とか「気にするな」「ささいなことだ」と評価することは、その人の生命をたいしたことはない≠ニ評価することであり、極端にいえば、切り捨てることにもなります。特に経済的、精神的、社会的に無力な子どもは心に余裕がありませんので、その評価がストレートに心に迫ると、反論することもできず、押し黙るしかありません。あるいは、心を冷たくして関係をとることに「無気力」になっていきます。そして、人を評価する心の癖≠身につけると、今度は人からも評価される強迫観念≠ノ襲われ、とても防衛的な心になり、素直さを見失って等身大の自分を宿すことができなくなります。 そこで素の自分の宿る場である「心の居場所」づくりを考えてみたいのです。 さて、励ましの意味で「気にするな」と声を掛けた人に悪意があるわけではありません。その多くは良かれと思ってのものであり、なぐさめや優しい気持ちから出ています。つまり、これは「思いやりのくい違い」なのです。 心の悩みを抱え「無力」を感じ、自己否定的な状態になっているときは、まず励まされる前に、その悩む心をそのまんま、ひとしきり聞いてほしいのです。 「ただ聞いてくれることだけ」でいいのです。すると、その自信のない自分の存在を「肯定」されたと思えるのです。その段階ではじめて信頼関係が築かれ、励ましや、アドバイス、指導が素直に心に「共感」的に入ってくるのです。「寄り添う」とは手間のかかるものですが、その費やす時間が心と心に架け橋(ラポール)を築く営みとなるのです。 * * 面接時間が終わりに近づいて、ひとりの気後れ気味な少年が、わたしの相談室でつぶやきました。 「あぁ、すっきりした。こんなに聞いてもらったのは生まれてはじめてです」 わたしはためらいながら、問い返します。 「嘘だろう。お父さんやお母さんや、先生だって聞いてくれただろう」 すると次のような内容の話をしました。 「言葉の意味や事柄は聞いてくれましたが、気持ちは聴いてもらえませんでした。みんな忙しいから余裕がないのかもしれませんが、言葉尻ばかりとって聞こうとするんですね。『今、なんと言った。もう一度言ってみなさい』『先生にもわかるように、もう少し筋道を立てて話してごらん』『その話の意味を教えてくれ』、すぐに、こんな聞き方をするんです。だからめんどくさくなって話したくなくなるんです。ただ聴いてくれるだけでいいんですよね。『クソ母親(ババァ)』って言ってみたい気持ちを黙って先に聴いてほしいんですよね」 またある男子中学生は無口から不登校になり、心配して相談室につれてきた父親にこう言いました。 「中学生になったから無口になったわけじゃないんだ。話したいことはいっぱいあった。でもお父さんもお母さんも、僕が小学五年生ぐらいから『くだらない話をするな。つまらない話をしている暇があったら勉強しろ』『言ってもなんの得≠ノもならないことをいつまでも言っていないで、どんどん学校に行きなさい』と、僕の不安や心配を聞いてくれなかった。聞く気のない人に話してもムダだと思って無口になった。話したくなるような聴き方をしないで、話したくなくなるような聞き方ばかりするんだ。だから無口になった責任の一部はお父さんやお母さんにもあるんだよ」 短時間で効率のよさを求める現代の情報化社会の価値観にいちばん似合わない、なじまないのが気持ちを聴き合う人間関係です。 人間関係はやり取りを重ねて、わかりあえるもので手が掛かるものです。特に自己否定をともない、彷徨うような心理的状態のときこそ、手間を掛けてその言い尽くせぬ思いを誰か心を寄せる人に聴いてほしいものです。その瞬間に人は善し悪し関係なく、存在そのものを肯定され新たな意欲を生み出すことができるのです。 聞こえてくる言葉のうしろにある余韻を聴いてほしいのです。「クソ親父……」の後に漂う「……」の気持ちをまずくみ取って、その感情をかみくだき自分の言葉にしてフィードバックしてほしいのです。 言葉を正確に聞くことはもちろん大切です。しかし、「聴」という漢字を分けてみると、「耳」に「十四」の「心」ととらえ、一つの言葉を「十四」の心を込めて、脇から寄り添う(共感的)ように「聴く」ことが、まず大事です。「十四」と書くぐらいですから、たくさんの思いをよく聞くことでしょう。「聴く」はゆるすという意味もあるそうです。そうすると素直な気持ちを真っ直ぐな心でよく聞くということです。それこそが、肯定的な人間関係、コミュニケーションの秘訣=iカウンセリングマインド)といえるでしょう。特に自信喪失気味で心に余裕をなくした子どもに対しては、発する言葉をすべていったんゆるして「聴」く。そして、その悪態や弱音も肯定的に歩む努力の証として信じて「聞」くのです。わたしはこれを「聴聞(リスニング)マインド」と呼んでいます。 つい忙しいと、わたしたちは言葉にとらわれて気持ちを聴くことを後まわしにしてしまいます。だから「聴聞」ではなく「聞聴」になっているのです。離れてから「悪かったな、言葉ばっかりに反応して」と落ち込んだりします。「聞聴」から「聴聞」に順番を変えてみませんか、とわたしはこの本を出版するにあたって提案したいのです。 手先は器用ですが勉強がおぼつかない中二の少年がやはり口やかましい父親にこう言いました。 「僕は縄文時代に生まれていればよかったな……」 「ばかだな。今は平成だぞ。なんで縄文なんだ」 少年は父親の言葉の意味だけにとらわれた「聞聴」に、語る気力をなくして黙り込むしかなかったのです。 あなたならどんな「聴聞(リスニング)マインド」で、その気持ちを言葉にしてフィードバックするでしょうか。 「そうだね、せめて弥生時代だったらね」 このくらいは言いたいものです。肯定的、聴聞的言葉の掛け方を先生や親御さんが心がけてくれたら、子どもたちもわざわざ相談室まで来る必要はないのです。聴聞(リスニング)が「心の居場所」をつくり悩みを解決してくれるのです。 |
目 次 |
まえがき――「聴聞マインド」で「心の居場所」づくりに心がけてみませんか 第1章 心を聴く 子どもや親、保護者の光≠引き出すとカウンセリングマインド ・危機こそ関係の始まり(信じ切る姿勢)・気になる存在であることの尊さ(関心を寄せる姿勢) ・抱っこの喜び(無常を知る姿勢) ・つまみ食い≠おそれずに(不安を察する姿勢) ・霞≠フかかった家族(関わりの必然性を求めて) ・お手本≠フ苦しみ(価値ある存在に気づく姿勢) ・こだわりを可能性にして素敵に括ろう(少しずつ深入りする姿勢) ・虐待≠おしゃれにしていませんか(根っこにふれる姿勢) ・期待しないという愛情の掛け方 子どもに寄り添うカウンセリングスキル―― 声かけ傾聴(自己一致) 支持(勇気づけ) 受容・共感 繰り返し(反復) 明確化 質問 ミラーリング カタルシス(浄化) 自己開示(素≠フ自分を語る) 子どもの表情の読みとり方――【心を開くための心くばり】 子どもの表情に敏感になる不安や悲しみを表す場づくり 「聴く」ことは、「気づく」こと。受容と共感の世界 再び子どもの心を閉じてしまう話し方を避ける 癒しへの導き、スキンシップ 第2章 心を理解する 心を病む子どもたち。「困った子」は「困っている子」――【症状には意味がある】 不安神経症/心の病は対人関係から統合失調症/心に鍵をかけないで 強迫性障害/症状に隠された意味 軽度発達障害/弱点を見逃す大切さ 家庭内暴力/悩みに無駄はない 摂食障害/心のダイエット 自殺・自傷行為/弱音を吐くことの大切さ 吃音/心がどもると言葉もどもる 緘黙/沈黙も対話 虐待/わたしのお母さんはどこ? 「心の居場所」としての保健室と相談室―【肯定するとはどういうことなのでしょうか】 ・みやげ話はやめます・「心」は人と人との関係の中に存在する ・かまってほしい子どもたち ・まずは、子どもにかまってもらえる大人に ■お便り1…… 返信…… ■お便り2…… 返信…… ■お便り3…… 返信…… 第3章 心の対話 不登校・いじめとの対話―― 子どもの緊張表現に心開くことが初期対応の鍵子どもが探しているのは痛みを受けとめてくれる癒しの場 「心の居場所」づくりは緊急かつ教育の本質を問うテーマ 登校刺激を悪者≠ノしてはいけない 家庭訪問で一番大切なのはされる側≠ヨの心理的配慮 不登校と総称される中には病気の子と病気でない子が… 「引きこもる」可能性のある子どもには二つのケースがある 生徒の立場に立った温かい指導が大切 人間関係を結ぶ喜びにめざめさせるためには… 休み明け、不登校への援助――【ケース別、対応のコツ】 事例1 初期サインを見逃さずラポールを架けた新卒担任●経過…… 援助…… 気づき…… 事例2 民間施設との連携に可能性を発見する中堅担任 ●経過…… 援助…… 気づき…… 事例3 引きこもる子どもを訪問し続けたベテラン担任 ●経過…… 援助…… 気づき…… 高校中退が問いかけるもの――【不安の中で歩む】 ただ聴いてほしかったU君投書で同世代復帰したB代さん ラリっても高校へ行きたかったC男君 悪態をつきながら泣いていたD子さん 【子どもの心に寄り添うストレス傾向チェックリスト】 高校生の親子からのお手紙 ■手紙1■ ■手紙2■ ■手紙3■ 子どもの悩みに寄り添う「心の居場所」づくりと校内連携 ・人間関係があればこその連携・本音の出しやすい教護教諭の役割 ・たらい回し≠ノ腹を立てたが、子どもを担任から取り上げるつもりはなかった ・担任は親子の砦 ・誰のための「心の居場所づくり」であり「連携」かをはじめの一歩≠ノして ・ヤッちゃん≠フ心の危機と向き合って 4章 心の扉を開いて お願い、先生も弱音を言ってください――【先生の微笑みが僕らの笑顔に】 先生の素直≠ウに会いたくて先生も病んでいる 子どもとつき合えない悩み 先生の子も問題児≠ノなるんだ? あとがき |
まえがき |
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著者紹介 |
■ 富田富士也(とみた ふじや)■ 1954年、静岡県御前崎市出身。教育・心理カウンセラーとしてコミュニケーション不全に悩む青少年への相談活動を通じ、絡み合いの大切さを伝えている。「引きこもり」つづける子どもや若者、その親や家族の存在にいち早く光をあて、「治療的」でないカウンセリングの学びの場を全国的に広めている。総合労働研究所所員、千葉明徳短大幼児教育科客員教授、千葉大学教育学部非常勤講師等を経て現職となる。
■主な著書 |
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